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2005年04月13日(水曜日)

プーアール茶には2種類のタイプがありますね。一般によく飲まれている、カビと土の匂いがするのは「熟茶」。これは緑茶に水と熱を与えて保管し、麹菌による発酵を促進したもの。いっぽう、「生茶」タイプは自然発酵。時間をかけて緑茶を自然に熟成させたものです。

桜の季節に長野へ旅したとき、高台の中腹にある一軒家のカフェで、プーアール生茶をいただきました。午前中、夏のような陽射しに花々がいっせいに咲きそろったあと、山の陰から雲がひろがってやわらかな花曇りになった午後。靴を脱いで一軒家にあがると、手前の六畳がうつわのギャラリーに、奥の六畳がカフェになっていました。

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海の家みたいに素朴な「小屋」なのですよ、とオーナーが笑った美しいカフェは、キャメルの毛布の上で居眠りする茶猫のようにひっそりとやすらかな気配に包まれていました。開けた窓からあたたかい風が吹き込み、窓の向こうでは竹林が絶えずさわさわと揺れていました。器に注いだ生茶「悟空生餅」の楓ハには小さな光が反射し、音楽は水滴のように空間にしたたっていました。何もかもが、ただ一回きりのことに思えました。

旅先では、なにかに巡り会うチャンスは一度だけ。本当は日常生活も一期一会なのだけれど、それを意識することは難しいですよね。旅のあいだは、明日はもう自分はこの場所にはいないということを知っているから、一瞬一瞬が貴重なものだと自覚できます。

次にこのカフェに来られるのはいつだろうか、そんなことを考えながら飲む生茶もまた、一度きりの味でした。生茶はまだ生きて呼吸を続けていて、今後も月日とともに発酵が進んでいくもの。もしも来年、桜の季節に再びこのカフェを訪れることができて、同じ悟空生餅をいただいたとしても、それはもはや今日のすっきりした味とは別の、ひとめぐりの四季を重ねた味に変化していることでしょう。

週明けに東京に帰ってくると急に寒さが戻って、厚いコートを着た人々が雨の街角を行きかい、桜の花は早くも盛りを過ぎようとしていました。


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