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2006年01月27日(金曜日)

消滅線路は記憶に向けて伸びる

060127kawag3.jpg<線路のない線路>というものがどれだけ奇妙なものか想像してみてください。見慣れた風景の中から不意に線路だけが消滅し、跡にはゆるやかにカーブしながら伸びる長い長い空白だけが残っているのです。

日立市にある実家に帰ったとき、高校生時代に通学に利用していた電車が廃線になっていることを知りました。小さな二両編成の電車は、かつては毎朝、毎夕、満員の乗客をぎゅうぎゅう詰めにして走っていたはずです。しかし、冬枯れの風景のなか、すでにホームから駅名のプレートは取りはずされ、線路はそっくり撤去されていました。

あるはずのものが消えているのに、小さな町は冬の青空の下で何ごともなく静まりかえり、時間は淡々と流れています。そんな風景は人に何かしら思わせずにはおきません。

それはまるで私の名前からある日突然「口」の文字が消え、空白がそのまま放置されているようなものでした。川 葉子。

060127kawag2.jpg私は衝動的に持っていたカメラを向け、考える間もなく手当たり次第にシャッターを切りました。数十年前に私が運ばれていた、線路のない線路。線路のないホーム。線路のない踏切。錠のかけられた古い駅舎。錆ついた発券機。うっすらと埃の積もったガラス張りの窓口。

それから、車を飛ばして終点の駅に行ってみました。その駅にはかつて祖父母の家があったのです。すでに祖父母ともに他界し、ずいぶん長いあいだ終着駅を訪れてはいませんでした。もちろんその駅にも線路は影も形もなく、ホームの割れ目からセイタカアワダチャEが伸び、その先に黄色の花が揺れていました。

線路が終わるところに、錆びた鉄製のデッキと階段が残っていました。それが乗船場のイメージを喚起して、私は輝く巨大な客船が音もなく草原を進んできて、この場所に横付けになる光景を想像しました。客船の甲板から陸に向かって無数に投げかけられるテープ。でも、陸上では誰ひとりテープがなびいていることに気がつきません…。

060127kawag1.jpg東京に戻ってから、線路のない線路の写真と、実家でみつけた母の若い頃の写真を組み合わせて、小さな写真集を作ってみました。デジタル出版を安価で受け付けている会社に注文して、限定2部。1冊は両親に送り、1冊は私の机の抽出の奥に入れています。


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