西の空に何かいる

勢力の強い台風が西日本を襲った日は、東京の空も不穏な色をしていましたね。台風が去ろうとする夕方、地上でも空でも激しい風が吹き、暗い色をした雲は刻々と大きく姿を変えていました。
空に、何かいる。
ベランダに出て西の空を見上げて、突然そう思ったのです。胸騒ぎがするほどに。巨大な台風にまぎれて空が裂け、その裂け目から、ふだんは姿を現さない巨大な何かがのぞいているのです。それはあきらかに生きて呼吸をしているとしか思えない、不思議な存在の気配でした。
私たちの耳には聞こえない周波数で轟音をとどろかせ、巨大な渦を巻くその「気配」にカメラを向けましたけれども、そのような気配をレンズがとらえられるはずもなく、宇宙の扉がいっせいに開いていたような瞬間は、わずか10分あまりで薄れていきました。
気がつくと風は弱まり、西の空はいつもの穏やかな薄い光のなかにありました。けれども身体中をざわざわさせ、血管を脈うたせた不思議な興奮のなごりはそのあともかすかに残り、もしかしたら古代の人間は台風のたびにこんな感覚をおぼえていたのかもしれないと考えたりもしたのでした。








