自転車に乗って、珈琲を飲みに
情熱的な食いしん坊の知人がいます。そのかたのお名前を、仮にX氏としておきましょう。
「福岡に良いカフェを見つけましたよ」
そんなメールをX氏からいただいてから1年あまりも経ったころでしょうか、ようやく教わったカフェを訪れることができました。
小さなカフェの男性店主は、やわらかな透明感と表現したらいいのか、繊細な優しさと表現したらいいのか、独特の不思議な空気を身にまとっていらっしゃるかたでした。
やりとりしたのはごく一般的な会話だったのですが、お話ししているうちに、そのひとの表情のなかに天使的な一点をみつけて注目していたから、不思議な印象が残ったのかもしれません。
その店主からうかがったX氏の話。
「はじめてX氏がお店に来てくださった日のことは忘れられません」
X氏は東京から福岡に向かう飛行機の中で、機内誌のページに紹介されていたそのカフェのことを知り、福岡空港に到着するなり「いま空港にいるんですが、お店に行くにはタクシーにどう言えばいいですか?」とカフェに電話をかけてきたそうです。そして空港からそのままタクシーに乗ってお店に直行したとか!
食いしん坊は、おいしいものへの直感がはたらくと、素晴らしい行動力を発揮するものですね。素敵そうな情報に接したとき、「いつか行ってみたいな」ではなくて、「今がそのチャンスだ、すぐに行こう」と思えることこそが、机上の食いしん坊と、真の食いしん坊との違いなのかもしれません。
いまやX氏は福岡を訪れるたびに、レンタサイクルに乗ってそのカフェにやってくるそうです。
「まるでこの街に住んでいるひとのように、いらしてくださるんですよ。自転車というイメージはないかたなのに」
たしかに高級外車のほうが似合うX氏ですが、福岡という街は自転車で移動するほうが気持ちいいサイズ。街の空気も含めて、おいしい珈琲を楽しんでいらっしゃるのでしょう。
※写真は珈琲をドリップする店主の後ろ姿です。心を癒す薬を調合している薬剤師にも、珈琲の実験をしている化学者にも見えます。









