死者も手をのばす一杯のコーヒー
小雨がちらちらと頬にあたる午後、とあるカフェにて作家の片岡義男氏が半日店長となり、自らお客さまに珈琲を淹れるという催しがおこなわれました。(当日の様子はこちらをどうぞ)
片岡義男氏はモノについての優れた書き手であり、自身で写真も撮られることから、カフェの一角には彼が撮影した写真とその実物が展示されたり、写真の裏に短いエッセイを添えてポストカード仕立てにしたものなどが並べられたりして、片岡義男の世界観で構成された書斎のような趣を呈していました。
いま、私はそのとき気に入って購入したポストカードを眺めています。表にはコーヒー袋の写真。裏には『死者も手をのばす一杯のコーヒー』と題したエッセイが綴られています。それによれば、片岡氏が最高のコーヒーとして愛飲している銘柄は、レイヴンズ・ブリュー(わたり鳥のいれたコーヒー)という会社が焙煎・販売する『デッドマンズ・リーチ』。
“この豆でいれたコーヒーを、死して久しくいまはベッドの上で白骨にとなっている人のかたわらに置くと、白骨は手をのばしてカップをつかむ、という意味の絵が袋に描かれている。” (片岡義男)
というわけで、その袋の図柄が右のもの。骸骨になった人間までとりこしてしまうコーヒーというわけです。
“アラスカ南西部の海に小さな島がたくさん点在するところがあり、そこにデッドマンズ・リーチと名づけられた浅瀬があるという。意味のニュアンスの豊富な、雰囲気のあるいい名称だ。
それをコーヒーの名に使った感覚も、このコーヒーの素晴らしさのうちだろう、と僕はひとりで満足している。
きれいに粒の揃った豆を見ると、じつに美しく油が浮かんでいる。深煎りの深さの内部に独特な軽さがある、という矛盾したような言いかたが無理なく成立する、たいへんに結構なコーヒーだ。締切りにも効果的、と袋の裏に印刷してある。”
ぜひ一度、このデッドマンズ・リーチを飲んでみたいと思い、RAVEN'S BREW社のWebサイトを探したらオンラインショッピングが可能。さっそくトライしたのですが、どうやらアメリカ国内以外の住所は入力できないようです。だめでもともとと拙い英語でメールを送ったら、すぐに「申しわけありませんが、今のところ日本には配達できません」という感じのあっさりした返信が戻ってきました。
RAVEN'S BREWの店舗はアラスカ州とワシントン州にあるそう。いつか買いに行こうと思っています。サイトにはしっかり韻を踏んだ、こんな気のきいたキャッチコピー:
Served in bed
Raises the dead
…が書かれているほか、デッドマンズ・リーチと題した小説が掲載されていたり、デッドマンズ・リーチの歌まで聴くことができて、このコーヒーが抱いている世界の豊かさに驚かされます。
※小説『デッドマンズ・リーチ』を一部、日本語に訳した方がいらっしゃいました。こちらのブログで読むことができます。
「”死”ってのがこんな具合だとはね…(中略)…幸いにもまだコーヒーの匂いだけは感じるようだ」
(第1章 『死人に口なしとは俺のこと』より)








