『ブイヨンの気持ち。』
ほぼ日刊イトイ新聞のお楽しみ、「気まぐれカメら」コーナーの主役(?)、ブイヨンの写真を集めた本が生まれました。タイトルは『ブイヨンの気持ち。』
この本のページにあるのは、一匹の犬と飼い主の幸福な日々。人と犬が信頼で結ばれて、お互いを大事にしながら暮らしている(犬だって、飼い主を大事にしますよね)、そのなにげない日常のすがたを見ていると、あたたかい気持ちがこみあげてきます。
季節や時間がくっきりととらえられていることにも驚かされました。たとえば雨降りの朝の感じとか、薄い光のさす早春の窓辺。暑すぎて本を読む気にもなれないような屋外、冷房のきいた室内の動かない感じ(きっとエアコンの音だけが低く小さく聞こえている)、夏の終わりに縁側にころがっているセミ。
『魔法をかけに』というページには、いちめんの枯葉を敷きつめた地面に木々の影が薄く長く伸びて、そこに小さくブイヨンがいます。そしてこんな言葉が添えられています。
さぁ冬の中に 溶けていく。
わたしは 冬だ。
わたしは 白い息だ。
春まで眠る木々に、
魔法をかけながら駆け回るのだ。
すきやき、かわはぎ、ポン酢、鐘。
半月、謙遜、福寿草
(『ブイヨンの気持ち。』糸井重里)
感覚的な言葉が、みごとに写真と響きあっています。理屈で考えれば、1行目と2行目の話者は違うような気がするのですが、話者は「冬」でも「ブイヨン」でもいいんですよね。「腹話術している糸井重里」でもいいのでしょう。冬のぴんと張った空気、乾いた葉っぱの匂いがよみがえってきます。
何度見ても感動するのは、『朝』というページ。すがすがしい光のさしこむ窓にむかって、身を乗り出しているブイヨン。顔は写っていませんが、ぴんと立ったしっぽからも、ぴんと立った耳の影からも、表情がわかります。写真に添えられた言葉がまたすばらしいのです。
いま 朝を迎えに行く
犬が 朝を迎えに行く
先に起きた太陽が
運動している空に
眩しそうな視線を投げかけながら
犬が 朝を迎えに行くところだ
(『ブイヨンの気持ち。』糸井重里)
生きものの朝は、こうありたい!
300ぺージ弱の中には決してごきげんな日ばかりではなく、飼い主が疲れていたり、風邪をひいてだるそうだったりする日もあるのですが、犬のほうは毎日、朝がくれば散歩とごはん! 遊び疲れたら眠る! ボール投げしてもらったら嬉しい! おこられたら悲しい! という基本をいきいきとやりつづけています。
仕事や人間関係が複雑にもつれたとき、ブイヨンという生きものにどれだけ元気づけられることでしょう。そしてまた、人間の両足のあいだが寝心地の良いベッドだということを発見して眠るブイヨンの姿には、ただもう、にこにこせずにはいられません。








