ぶぶ漬け伝説と「築地」のこと
京都で「ぶぶ漬けでもおあがりやす…」と言われたら、「早く帰れ」のサインだというのは、落語から生まれた都市伝説なのですが、まことしやかに流布されるこのたぐいの伝説はあとをたたないようです。
ある夜、祇園の「いづう」の店内で、鯖寿司からはがした分厚い昆布を噛みしめていたら、30歳前後のカップルがレジのところで、お店のおばさんにおそるおそる、といった感じで質問を始めました。
「京都の飲食店では、お店の主人に外までお見送りされたら “二度と来るな”という意味だと聞い
たんですけど、本当ですか?」
おばさんは笑って「そんな話、はじめて訊いたわあ」と否定し、もう一人のおばさんにも同意を求めました。カップルは胸をなでおろして帰っていきましたが、この光景は観光客が京都に対して抱いている不安をまことによく表していると思います。
京都の街には、自分のあずかり知らない不文律が網の目のように張りめぐらされていて、知らずにそれを破って後ろ指をさされ、笑われているのではないかと。
カフェはそのような心配のない場所。そこではいちげんさんも、常連客もコーヒー1杯分のおもてなしを受けることができます。おそろしく無愛想なおじいちゃん店主がいるのもまた愉しく、「コーヒー」と注文すると生クリームを浮かべたウインナーコーヒーが出てくるのも軽いカルチャーショックです。
有名なレトロ喫茶なので、ご存じのかたも多いでしょうか。「築地」のことです。店名は築地小劇場からとったのですって。








