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2011年02月20日(日曜日)

野田地図『南へ』、妻夫木聡 ×蒼井優

2月10日からスタートしたNODA MAPの舞台『南へ』を観てまいりました。

私にとっては『キル』以来、ひさしぶりのNODA MAP。上演中、舞台に倒れる妻夫木聡のもとに、女性が客席から音もなく駆け寄ってすがりつき、ものの数秒もたたないうちに劇場スタッフに整然と退出させられるというハプニングがありましたが、一連のことがあまりにも静かに混乱なく起きたために、途中までは大多数の観客が「こういう演出なんだ」と思っていたにちがいありません。

物語はタイムリーすぎて怖いくらいの、爆発的噴火の予兆に揺れる火山観測所で展開します。

  火の山が大好きな男(妻夫木聡)が、火山観測所に赴任する。
  その赴任先で待っているのは、虚言癖の女(蒼井優)。

  やがて、大噴火の噂が流れる。流れるのは、噂だけか。
  それとも、本当に溶岩が流れ出すのか…。

  不確かな情報、予知、夢、噂、群がるマスコミ…
  「信」じられないものばかりで織りなされる、
  まことしやかな火の山の物語。
                      (野田秀樹)

舞台に立つ役者さんたちには、映画のカメラの前に立つ場合とは異なる演劇的筋肉が要求されるものですが、二度目のNODA MAP参加となる妻夫木聡が驚くほどの好演を見せてくれました。日々多くのことを熱心に学び、自分の血肉にしたのだということがわかる確実で豊かな演技。

髪を思いきり短くした蒼井優も魅力的でした。今後さらなる成長を見せてくれそうですが、演技力とはべつに、彼女のたたずまいには不思議な、えもいわれぬ何かがあるんですよね。それが脚本家や演出家や監督を惹きつけてやまないのでしょう。

野田秀樹の脚本はいつも、ひとつの言葉が万華鏡のように色彩と意味をくるくる変え、変幻自在にふくらんで物語の蜘蛛の巣を紡いでいきます。

たとえば、このコラムのタイトル「ほんわか」を素材にするなら、ほんわかから「本」と「和歌」と「本歌取り」がとりだされ、本からは「図書館」と「本物」と「借り物」が生まれ、和歌からは「新古今和歌集」と「若者」と「牛若丸」と「輪っか」が生まれ、登場人物のひとりはワカメちゃんと名づけられた鳥で、脚に輪っかをはめている……そんな具合に。

今回のお芝居では言葉遊びは最小限。そのかわりに、身振りひとつで何通りもの表情に変化して目を楽しませてくれたのは衣装でした。上着を羽織った瞬間に、江戸時代の農民が現代の青年へ。それが帽子をかぶったとたんに、第二次大戦の日本兵に。イマジネーションを喚起する衣装はひびのこずえが担当。

アンデンティティを喪失した日本人、天皇と戦争とメディア。物語のなかに近年の野田秀樹が提出してきた硬質なテーマはいくつも見つけられますから、どのようにも読み解けそうなのですが、最終的にはそんな解釈を拒むようにして、舞台は闇のなかに淡い光芒をひき、わりきれない謎と余韻を残して終わります。

「…この芝居は、そうやすやすとは喩え話に変えることができないものだ、ということがわかった。…喩えられない話もこの世にはある。」(野田秀樹)

ひとつの舞台がわかりやすいテーマに回収されてしまい、生身の役者たちの肉体が発散する熱やしぶきが見えなくなってはつまらないですよね。

カーテンコールのとき、妻夫木聡の感極まったような表情にはっとしましたが、帰宅してから、この日彼が映画『悪人』で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を受賞したことを知りました。


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