
2008年02月15日(金曜日)
カフェチェーンが出版社を提訴?
東京カフェマニア主宰 川口葉子
あるカフェチェーンが出版社を訴えた、というニュースが巷を少々にぎわせていますね。
ニュースによれば、原因となったのは一冊の雑誌に掲載されたカフェチェーンのランキング。ひとりのライターさんが合計11のカフェチェーンを覆面調査した結果が掲載されており、最下位にランクされたカフェチェーンが「名誉を傷つけられた」として出版社に1100万円の損害賠償を求めているのだそうです。
記事中のランキングでは、1位はタリーズ、2位はセガフレード・ザネッティ、3位はスターバックス。上位のお店だけ発表すれば波風も立たなかったのでしょうが、最後の11位までずらりと名前を並べると、まるで学校の廊下に期末テストの順位が最下位まで全員張り出されたような緊張感がありますね。
提訴に踏みきった当事者の憤りは理解できるのですが、いささか冷静さを欠いた、大人げない反応のように思えます。記事はあくまでも個人の主観的な判断で書かれていますから、落ち着いた年代の読者ならうのみにはせず、自分なりの基準でお店を選ぶはず……少なくとも、私の場合はそうです。
このカフェチェーンは、ブランドイメージへの被害を最小限に抑えるためには、笑って取り合わないのが一番だったのではないでしょうか。なにしろ世の中の大多数の人々は、毎週読み捨てられていく一冊の雑誌の中でそのカフェチェーンが最下位だと決めつけられたことなど知りもしなかったわけで、今回の提訴のニュースで初めてその事実が広まってしまうことになったのですもの。
カフェは本来、カップ一杯分の心の余裕を提供する場所であるはず。こんなランキング結果にも心の余裕と洒落っ気をもって対処するなら、逆にイメージ向上のチャンスに転じられるかもしれません。
たとえば、記事で指摘された欠点を3ヶ月かけて本気で改善し、このライターさんに1年間無料パスをプレゼントするというのはいかがでしょう。「あなたのおかげでこんなに素敵なお店になれました。お好きなだけご確認ください」という感謝の言葉とともに。そして、改善後の印象をあらためて記事に書いてもらえばいいではありませんか?

2008年02月08日(金曜日)
大人のための絵本『love ~ラブ~』
東京カフェマニア主宰 川口葉子
『love ~ラブ~』
画:ジャン・ベルト・ヴァンニ
文:ローウェル A.シフ
青山出版
(1890円)
デザイン性の高い絵本をいただきました。1964年にフランスで出版され、世界中で100万部以上のミリオンセラーとなった絵本の復刻版。バレンタインデーに大切な人に贈るにもふさわしい一冊です。
デザインを手がけたのはイタリアの画家ジャン・ベルト・ヴァンニ。ローマ大学建築学部出身、映画やオペラの舞台美術でも活躍した彼の才狽ェ豊かに発揮された『love~ラブ~』は、色彩や造形はもちろんのこと、紙の質感、手書きの文字、複雑なかたちに切り抜かれたページが隣りあうページに落とす不思議な光と影の効果にいたるまで、まるごとアートとして楽しめる凝った仕上がりです。
みごとな造形にばかり目が向きがちな絵本ですが、物語も強く心を動かすもの。主人公の女の子の姿に、自分の中に横たわる“屋上者”の魂が共振するのを感じました。
登場するのはかわいくない女の子。いささか風変わりな個性の持ち主で、人にいやがられることもするから、いつもひとりぼっちです。でも、彼女が手紙に書いた言葉は……。
唐突に、断ち切るようにして訪れるラストシーン。最後のひとことがあまりにも思いがけない言葉だったので、もしかしたら伏線となるページを読みとばしてしまったかしらと、もう一度最初からページをめくったほどです。
最後のページの意味について考えをめぐらしているうちに、溢れるようなせつなさに心臓をつかまれて涙してしまいました。たくさんの解釈が成り立つ言葉です。たとえばそこに人と人とのコミュニケーションのすれちがいや、あたたかな愛情を交わすことの困難さを読み取る人もいるでしょう。
私はひとりの女の子の孤独な魂と、そんなにも孤独でいながら世界を呪詛することなく、この世界の良いものを感じとり、世界を愛そうとする心を、なんと強く美しいのだろうと思ったのです。

2008年01月25日(金曜日)
スプーンが立つ?スペイン式チョコラータ
東京カフェマニア主宰 川口葉子
マドリッド~グラナダ~バルセロナと10日間のスペイン旅行をしたときの最大の記憶は、とにかく1日中食べてばかりいたこと。宿泊したウェスティン・パラスの優雅な朝食、ホテルリッツのアフタヌーンティー、グラナダの修道院ホテルのガスパチョと、私の身体に深く刻み込まれている記憶はガウディの建築よりむしろ料理。
スペインの朝食といったら、チュロスとチョコラータです。1日に5回食事をすると言われるスペインの人々にとって、食べる喜び=人生の喜びだとか。むやみに親近感を感じてしまいますが、そのスペインの食文化で重要な役割を占めているのがバル。
バルといえば、日本でもタパス(小皿料理)をつまみに立ち飲みで楽しむバルが流行しましたが、そんな「夜のバル」ではなく、「昼のバル」の魅力を取り入れたカフェが昨年末、目黒駅3分ほどの路地裏に登場しました。
カフェ「LUBERO(ルベロ)」のオーナーはスペイン旅行の折にバルの魅力を満喫し、濃厚なチョコラータを自身のカフェのメニューに組み込みました。
そのチョコラータは、私たちが想像するフランス式の「ショコラ・ショー」、つまり、ココア状のさらりとしたホットチョコレートドリンクではなく、半固形。テーブルに運ばれてきたとき、思わず「生チョコ?!」と目をみはりました。
スプーンですくいながらいただいた温かなチョコレートは、ドリンクとも呼べるしスイーツとも呼べそうな不思議なとろりとした食感。
「だまされたと思って、お砂糖を加えてみてください」
オーナーがおっしゃるので、おそるおそるチョコラータに砂糖とミルクを加えて混ぜてみますと、なるほど甘みをプラスしたほうがいっそうおいしくいただけます。
お店は2階建ての1軒家。1階奧のつきあたりに階段があり、2階席も自由に利用することができます。2階奧にはギャラリーも設けられていますので、のぞいてみてくださいね。
▼LUBERO(ルベロ)」
東京都品川区上大崎3-5-18
TEL:03-5421-5518
http://lubero.jp/

2008年01月18日(金曜日)
小さな2つの珈琲屋台の飲みくらべ
東京カフェマニア主宰 川口葉子
沖縄の島風に呼ばれて、東京から沖縄にたったひとりで移り住んだ女性、辻佐知子さん。
彼女が那覇の国際通りの路地裏でいとなむ小さな屋台の珈琲店「ひばり屋」さんの魅力については、拙著『カフェの扉を開ける100の理由』に綴らせていただきました。
※こちらのサイトでも珈琲屋台ひばり屋をご紹介させていただいています。
いつもなら那覇に行かなければ、辻さんの太陽のような笑顔とあたたかなお喋りとおいしいコーヒーに会うことはできませんが、今週末に屋台イベントで東京にいらっしゃるとのお知らせをいただきました。
JR中央線・武蔵小金井で同じくチャーミングな珈琲屋台をいとなむ「出茶屋」さんとの合同企画で、2人の女性店主のコーヒーの味を飲みくらべて楽しむという趣向。
辻さんは沖縄で「うつわによってコーヒーの味はどう変わる?」をテーマに、さまざまなうつわとコーヒーの取り合わせを試すという素敵な催しもおこなったそうですが、今回はカフェオレとカフェラテの飲みくらべが楽しめるようです。
週末の東京もきっと冷え込むことと思いますが、コーヒーの湯気と、気さくな辻さんのおもてなしに、心はぽかぽかあたたまるはず。お近くの方は散歩がてら立ち寄って、どうぞお気軽に辻さんとのお喋りを楽しんでくださいね。
「屋台デュオ!」~沖縄珈琲屋台ひばり屋が東京に遊びにきたよ~
【日時】 2008年1月19日 12時~20時までま
【特別メニュー】
「珈琲飲み比べセット」…600円
水の重力で淹れるドリップ珈琲 (出茶屋)
圧力で抽出するエスプレッ・(ひばり屋)
美味しいコーヒーの魅力をぜひ飲みくらべてみてください
petal.さんの可愛いお花一輪付き
「カフェオレ・カフェラテ飲み比べセット」…700円
フランスの珈琲牛乳カフェオレ (出茶屋)
イタリアの珈琲牛乳カフェラテ (ひばり屋)
珈琲を牛乳で割った優しい味の飲みくらべです
petal.さんの可愛いお花1輪付き
【場所】
武蔵小金井のお花屋さん「Petal」の前、「珈琲屋台出茶屋」にて
JR武蔵小金井駅南口から小金井街道をまっすぐ徒歩5分、坂の途中。
Flowers&Plants「Petal.」
※屋外でのイベントですので、暖かい格好でご来店ください。

2008年01月11日(金曜日)
風水のような、タオのような
東京カフェマニア主宰 川口葉子
家族というつながりは奇跡のようだと実感したお正月でした。日ごろは両親が元気でいてくれることに安心して自分の生活にかまけ、めったに実家に電話をすることもない私ですが、お正月に夫と帰省をすれば上げ膳据え膳で迎えてもらえるのはなんとありがたいことでしょう。
いつも、どんなときでも無条件に私の幸福を願っている家族。若い頃はそれが負担で、不自由とさえ感じたものですが--「不幸になる権利を奪われている」と思ったものです--いまでは本当に幸せな家庭で育ったのだと感謝しています。
生まれた瞬間から何十年もの間、ずっと変わることなく、見返りも求めずに注がれ続けてきた愛情。考えてみれば、それは本当に奇跡のようなものではありませんか。
そんなわけで、実家に帰ったときに両親から「麻雀をしましょう」と提案されたときも、麻雀が全然できないにもかかわらず、さからわずにつきあうことにしました。両親はどこかで「麻雀は脳の老化防止に良いらしい」というもっともらしい情報を仕入れてきて、20年ぶりに物置から麻雀パイをひっぱりだしてきたのです。
夫も私もまともにルールさえ理解していませんから、手渡された入門書を斜め読みしたあとは、父から教えてもらいながら実践。それが、父の言葉を聞いていると、まるで世界のなりたちと人生について語っているようなのです。おかげで急に、麻雀という遊びが内包している世界観に興味を惹かれてしまいました。
「いま、東の風が吹いているからね、それを忘れないで」
これは場風(ばかぜ)の説明なのですが、順繰りに東南西北の風が流れるその世界観は限りなく風水的と申しましょうか、タオ的と申しましょうか。もともと中国の遊びですから当然なのですが。
「自分の手ばかり見ていないで、場を読むんだよ」
「最初からゴールの形を決めつけないで、柔軟に変えていくこと」
「やってきたパイに逆らわないほうがいい」
父はそんなことをアドバイスしてくれましたが、まるでタオイストが宇宙の法則や人生訓を語っているようではありませんか。ひとつのゲームを深く探究していくと、宇宙の法則にまで突き抜けてしまうのかもしれません。
よく言われた「ドラは出世の妨げ」というのも、なかなか含蓄のある麻雀アフォリズムに思われます。自分のラッキーな持ち駒をどう活かすかに気をとられて、高いゴールにたどりつけないこと。
…なんてことに感心するばかりで、ちっとも勝負強くなりませんでした。

2007年12月29日(土曜日)
1年の最後に
東京カフェマニア主宰 川口葉子
日本のコーヒー界に大きな足跡を残された方の訃報が、この年末に飛び込んできました。もはやその人と言葉を交わすことはできなくなってしまいましたが、ある種、神様的な存在だったその人が魂をかけて育てあげたコーヒーの味と香りの記憶は、薫陶を受けた人々によって永く受け継がれていくに違いありません。心よりご冥福をお祈りします。
今はなき表参道の美しいカフェで、その人が焙煎したコーヒーを、そうとは知らずにずっと飲んでいたのだということがわかったのは数年前のことでした。
私の初めての著作 『東京カフェマニア』 の最初の章に、社会人になりたての時代にこよなく愛したカフェの記憶に触れ、いまでは名前すら思い出せなくなっているけれど、表参道の路地裏でひっそりと蔦におおわれて佇んでいたカフェに足しげく通っていた、と書いたところ、それを知った方が当時のオーナーとのご縁をつないでくださったのです。
すでに消えてしまったカフェのオーナーに初めてお目にかかり、往年の日々の記憶をうかがうのは不思議な気持ちがするものです。
「いつもお店のコーヒーを美味しく飲んでいました」
そう申し上げたとき、オーナーの口をついて出たのが、彼の名前でした。彼の焙煎した豆を用いるだけではなく、直接カフェに招いて丁寧にドリップの指導もしていただいたのだといいます。
人生の何年間かを、その人が焙煎したコーヒーの深く豊かな味わいとともに過ごすことができたのは、私にとって誇るべき幸運でした。クリスマスイブにこの世界から去っていかれたというその人に、そっと静かに、心からの感謝を捧げたいと思います。
今年もほんわか茶飲み日誌に1年間おつきあいいただきましてありがとうございました。2007年の私のお当番は1月11日(金)からのスタートです。新しい年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2007年12月28日(金曜日)
足のかたちになる靴の物語
東京カフェマニア主宰 川口葉子
谷中に「そのみつ」というオーダーメイドの靴屋さんのアトリエがあります。こじんまりした店高ヲですが、気鋭の若手職人が成功させたショップとして全国に名を知られ、人気を集めています。
今年の春、偶然にそのアトリエの前を通りかかり、革の色彩の微妙な濃淡や、シンプルかつチャーミングなデザインに心惹かれ、オーダーすることにしました。
代金は靴の基本料+その人の足型にぴったり合わせるための細かな作業の工賃。私の場合は合計で5万円とちょっとでした。いささか手間のかかる足なのです。
左足と右足のサイズがほんの少し違うので、ふつうの靴屋さんで左足に合わせて靴選びをするときは23.5cm、右足で選ぶなら24cm。たいてい24cmを選びますから、いつも左足が微妙に靴の中で遊んでしまいます。オーダーメイドの靴なら、そんな問題もきれいに解消してくれるはず。
「そのみつ」では、まず店頭で時間をかけて靴のデザインと革を選択しました。選んだのは、足の甲がきれいに見える右下の写真のデザイン。色は深いグリーンで作っていただきたかったのですが、ちょうどその革が終了したところだったので、珍しい、春の空のようなスモーキーなブルーを選びました。
あとは驚くほど細かな採寸が待っています。椅子に腰かけた状態で、両足のありとあらゆる部分の寸法を測ったら、次に立ち上がった状態で再びありとあらゆる寸法を測ります。座っているとき、立っているときでは、足の指やかかとへの力のかかり具合が違いますから、各サイズも微妙に変化するのですよね。
「仮縫いの状態まで仕上がったらご連絡させていただきます。申しわけないのですが、おそらく半年ほどお待ちいただくことになるかと」
すべてが丁寧な手仕事ですから、大量生産はできないのです。そうして、「仮縫いが出来上がりましたので、試し履きにいらしてください」という電話をいただいたのが12月のこと。クリスマス前にアトリエを訪れて、見ているだけで散歩に出かけたくなるような美しい靴を試し履きさせていただきました。
私のためだけに、たっぷり時間をかけて作られた、1足の空色の靴。その靴に足を入れると、職人さんは両手のひらと指を使って、つま先、甲、かかとの密着具合をきめ細かく確かめて、「ここが当たりませんか?」「ここは締まった感じがしますか?」と尋ねていきます。
甲の部分がちょうどぴったりすぎる、もう少しゆとりを持たせてもいいのでは?と錐垂キると、「うちの靴は浮燉も革で作っていますから、履いていただいているうちに、足のかたちになるんです。今の時点でここをゆるくしてしまうと、ちょっと履き慣れてきたときに、靴の中で足が前にすべってしまうと思うんですよね」とのこと。
ああ、そういえばそうなのです、ヒールの高い靴を履いたときの最大の悩みはその“前すべり”でした。
靴を履いて何往復か歩いてみて、甲の部分以外の微妙なサイズ調整を何箇所かおこなうことを決めたあと、空色の靴は再びアトリエに戻っていきました。
「お待たせするばかりで本当に申しわけありません……来年、1月20日に完成します」
というわけで、オーダーしてからほぼ10ヶ月のあいだ待つことになった靴ですが、待つのも楽しみのうち。そして、待つ時間が長ければ長いほど、大切にしようという気持ちが熟成されていくものです。
そのみつの革は履けば履くほど、落ち着いた深い色に変化していくのですって。しかも、そのかたちは私の足のかたちそのものになっているのですから、自分の足をいたわるように、まめに修理しながら愛用したいと思います。桜をめぐってぶらぶらと散歩できる季節が待たれます。

2007年12月14日(金曜日)
読み終えた本の最良の行き先は?
東京カフェマニア主宰 川口葉子
「この分野のお買いものだけは、お財布を気にしなくていい」と自分に許しているジャンルがあります。どうせ食べものでしょう!と言われてしまいそうですが、本です。
ふところ具合が淋しいからという理由で、素晴らしい本に出会い損ねてしまうとしたら、これほど悲しいことはありません。ひとによってはそれが好きなアーティストのライブだったり、部屋に飾る花だったり、旅だったりするのでしょうね。
そんなわけで、家にはひたすら本が増殖していくばかり。本の整理はハウスキーピングの最大の頭痛の種となっています。もう読まないと判断した本の多くは捨ててしまうのですが、なんてもったいないことをしているのだろうと、後味の悪いことこの上ありません。Amazonやヤフオクで売っては?と友人がアドバイスしてくれたのですが、面倒くさがりの私にはどちらも向いていないようです。
この年末、やっとまともな解決法に出会いました。それはブックオフがWeb上で実施している「スマイル・エコ・プログラム」。本を送料無料で引き取ってもらって、買取金額は「エコ募金」に寄付することにしました。この募金は任意なので、しなくてもかまわないのですが。
とりあえず段ボール3箱分に本を詰めてWebサイトから申し込んだところ、翌日すぐに宅急便の人が引き取りにきてくれました。なんて簡単!
寄付先は5種類のコースから選べて、私は森林の保護コースを選択してみました。「たとえば1000円で、マングローブの苗木約100本をバングラデシュに植えられます」
買取金額がいくらなのか、査定は約1週間後だそう。たいした金額にはならないと思いますが、あの本たちがマングローブの苗木に変身して大きく育ってくれますように。

2007年12月09日(日曜日)
擬音語占い
東京カフェマニア主宰 川口葉子
ふわふわ、ほかほか、にゃあにゃあ、といっった擬音語や擬態語=オノマトペ。この茶飲み日誌の「ほんわか」もオノマトペですね。
お料理をするときや食事をするときもたびたびオノマトペにお世話になるもので、福田里香さんには『スイーツオノマトペ』という素晴らしい着想のお菓子のレシピブックがあります。
“おいしいお菓子にはおいしい音がついてきます。 ぱりぱり、ぺろぺろ、ぷるんぷるん ・・・音にあわせて作ってみませんか?”
文章を書くことを習ったことのあるひとなら、「オノマトペを乱用すると文章の品格が失われる」という古典的なお約束を耳にしたことがあるかもしれません。
しかし、ここぞというポイントで的確なオノマトペが使われると、その文章は鮮烈な印象を与えるもの。たとえば私の記憶には、江國香織が雨を眺めているときの心情を綴った、「胸がすーんとした」という不思議な表現が強く残っています。
日本語は欧米諸国の言語に較べると、とびきりオノマトペが多いのですって。その数は英語の3倍以上とか。日本語の発音は、英語などの子音の豊富な言語に較べて音が少なく、その分をオノマトペで補っているという説を聞いたことがあります。
沈黙をあらわす擬音さえも、日本語には存在するのですよね! 「しいん」と静まりかえる。「しーん」のほうは手塚治虫の発案だそうで、「しいん」は国語辞書に載っていますが、「しーん」のほうは載っていないのでした。
そう、オノマトペなしでは成立しない表現形式といったら、まんが。日本のまんがは世界中の言葉に翻訳されていますが、作者が編みだす独創的なオノマトペがどう翻訳されているのか興味を惹かれます。
なぜこんなことを書いているかというと、最近購入した擬音語・擬態語辞典が面白かったから。眠っているときのオノマトペ「くーくー」と「ぐーぐー」と「ぐーすか」のニュアンスの違いなんて、ご存じでしたか?
くーくーは鼻息の音、ぐーぐーはいびき、ぐーすかはいびきと寝息を交互にたてているのですって! 「くー」がいびきで、「すか」が寝息なのでしょうか。
カフェでそんなことを話した翌日、擬音語占いというのを友だちに教えてもらいました。私を擬音語で浮キと「ぬーん」ですって。どういう状態ですか! ちなみに友人は「ぷ~ん」でした……。

2007年11月30日(金曜日)
樹のような人に聞いた、樹の気の話
東京カフェマニア主宰 川口葉子
肩こり解消のため、鍼の先生にお世話になりました。よく知られているクラシックギタリストも、突然手が動かなくなる危機に見舞われた際に訪れたという治療室です。
鍼を打ち終えたあと、先生はあおむけに寝た私の後頭部に両手をあてて尋ねました。
「いま、テンとつなぎますからね、待っててください。なにか感じますか?」
「……いいえ、感じません。点をつなぐというのは、ツボとツボを結ぶということですか?」
「いやいや、空の“天”の気とつなぐんですよ。まだつながっていませんから、感じないでしょうね」
「なにが、天の気とつながるのですか?!」
先生によれば、天のエネルギーと先生とを見えないパイプでつなげて、天の“気”を私の身体に流し込むのだそうです。つながるには空で輝くエネルギー、たとえば太陽をイメージすればいいのですって。その瞬間、先生は頭頂部にぴりぴりっとした微弱電流のようなものを感じるので、「いま、つながった」とわかるのだとか。
横たわったまま目を閉じていたら、私の頭のてっぺんから首、鎖骨にかけて、1本の太い芯のようなものがまっすぐに打ち込まれたイメージがふっと浮かんできました。
そんな時間のあいだに先生が話してくれたのは、樹木というものの偉大さ。若い樹はまだエネルギーが弱いけれど、百年以上の歳月を生きてきた古木は素晴らしいエネルギーに満ちて、魂のようなものを持つ存在になっているといいます。
「樹齢百年を超えた樹の下に立って“気”でつながれば、会話を交わすこともできるんですよ」
「樹が、言葉を伝えてくるのですか?」
「いや、伝わってくるのは純粋なエネルギーそのものです。それを受け取る人間の脳が、自分が理解できる言葉に翻訳するんでしょうね」
「樹はどんなことを言うんでしょう」
「素晴らしいですよ。彼らはその土地を守り、幸福にするために尽くしている存在です。自分はなにも求めない。大地やまわりの生きものに豊かな自然のエネルギーを分け与えるために、じっと動かずにその場所で生きつづけている、というのが伝わってくるんです」
先生が住んでいる町の駅前には150歳のクスノキが繁っていて、先生の気持ちがあまりにもそのクスノキに同化しているため、家族には「死んだらあの樹の根もとに埋めてほしい」と頼んでいるのですって。
長身痩躯で優しい風貌をした先生。白い簡易ベッドから起きあがって先生の顔を眺めたら、たしかにその姿が1本の樹木めいて見えてきました!
(写真は沖縄の濃い緑につつまれた、素晴らしい自家製天然酵母のパンをつくっている宗像堂ベーカリー。中庭が小さなカフェになっていて、買ったパンを食べることができます。このお店もみずみずしい樹々のふところで守られているのですね)