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2010年12月11日(土曜日)

洒落のわからない人/書店にて

東京カフェマニア主宰 川口葉子

ずいぶん前のことですが、書店で『ダジャレ ヌーヴォー』という本が目にとまったことがあります。
タイトルの通り、著者の石黒謙吾さんがみずからしゃべり散らした1000個の駄洒落を、9つの場面と84のシチュエーション別に分類して掲載したもの。

ページをめくると、微妙な寒々しさが漂ってきました(笑) その場の勢いで口からこぼれた駄洒落を文字に変換して紙の上に収録すると、別ものに変質してしまうんですね。

たとえば「シューマイゴッド」というのは、シュウマイを床に落としてしまったときに使うそうですが……、これを聴かされた方がOh, my Godと弱々しくつぶやいてしまいそうですね。

1000もの例がおもしろいかどうかはさておき、それを分類・解説したページこそ洒落がきいていて、この本の白眉と思われました。
たとえば「ダジャレは【見立て】による知的作業」であるとか、「ダジャレの形成によるパターン分類」とか。

対象が駄洒落であるだけに、このたぐいの解説は大まじめに堅苦しくやればやるほど、ばかばかしくて楽しさが増すのですよね。

ところが、ふとしたきっかけでこの本の読者評を見てびっくり。「駄洒落は気軽に楽しむもので、堅苦しい解説などは、駄洒落を高尚なものととらえている人向き」というコメントがあったのです。

もちろん本の読み方は自由なので、そう感じる読者がいても全くかまわないわけですが、それにしても洒落のわからない人だ、と思ってしまったのです。

 * * *

201211kawag.jpg半年ほど前のこと、ある書店で、孫正義氏の写真の下に『これからの「正義」の話をしよう』が平積みになっているのを見かけました。ずいぶん洒落たことをする書店です!

おかげで私は、やがてベストセラーとなるこの本を「これからのマサヨシの話をしよう」と勘違いしてしまい、その後数日間はソフトバンク社長の今後のプライベートな展望について綴られた本だと信じて疑わなかったのです。

洒落がわからない人とは、私でございました。

いま、その孫正義氏のTwitterをちょっとのぞいたら、以下の事実を報告した人に対して、ご自身で「ガーン!」とリプライしておられました。なかなか洒落のわかる人なのかもしれません。

『Google』で「禿」を検索すると
上から2番目に「孫正義」が表示される

“孫社長を揶揄して「禿」と呼ぶインターネットユーザーが多数おり、その影響で検索サイトが自動的に「禿=孫社長」という紐付けをし、検索結果に影響が出ていると思われる。”
(記事より)

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2010年12月04日(土曜日)

40代女子の「GLOW」

東京カフェマニア主宰 川口葉子

101204kawag1.jpg「40代女子」のためのファッション誌『GLOW』が創刊になりました。ブランドとコラボレーションしたふろくが好評の宝島社から発売ということで、もちろん豪華なふろく付き。ゴールドに輝くヘレナ・ルビンスタインのポーチがセットされています。

11月28日発売のGLOW1月号の特集『大人の女子会お取り寄せ』にご協力させていただきました。
デルベアのバウムクーヘンや、オードブルに便利なゾッターのカカオニブなど4品をご紹介しています。

ページをめくって強い印象を受けたのは、もちろん「女子」という言葉。40代の女性たちが「私は女子である」と強弁…もとい、自称することが許される時代になったんですね。素敵。

それはとりもなおさず、40代の女性たちを「自分のことを平常心で女子と呼べる人」と「自分を女子とは呼べない人」に二分することになります。

私などは夫の実家・伊豆大島に行くと長靴をはいて、義母が趣味でつくっている家庭菜園を手伝い、嬉々として「島のオバア」をめざしていますから、いつまでも若く美しく輝いていたいという女子のけなげな努力とはベクトルが反対。

101204kawag2.jpg自然栽培の野菜のように、宇宙の摂理のままにすうっと枯れていきたいのです。(枯れることと腐ることは全く違うそうですね)

でも、自称女子であれ、自称オバアであれ、おいしい食べものへの願いは同じなのでしょう。五感に嬉しく、心身にすこやかなおいしさを。

そんなわけで、2010年の流行語大賞は「ゲゲゲの~」だそうですが、個人的に感じている流行語大賞は「女子」です。
(いつの日か、50代の女性たちをターゲットにした女性誌が「50代女子」と呼びかけはじめる時代は来るのでしょうか?)

ところで、「ネット流行語大賞」「ケータイ流行語大賞」の10位までの言葉のうち、なんのことだかわかったものがそれぞれ1語ずつしかありませんでした! 

▼ネット流行語大賞

▼ケータイ流行語大賞

そんな装備で大丈夫か、と聞かれても困りますし、あげぽよ、にいたっては韓国語かと思っちゃいます。アンヌンハセヨ。

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2010年11月26日(金曜日)

朝リーディング

東京カフェマニア主宰 川口葉子

111126kawag1.jpg長谷川理恵さんが上梓した『朝リーディング』が話題になっていますね。

いつも一生懸命に努力している人--そんな印象のある彼女が10年間つづけているのは、朝、目覚めたらすぐにお風呂に入って1時間ほど読書することなのだそうです。

この朝リーディングはふつうの読書とは違っていて、起きたての「素の自分」を元気づけ、コンディションを整えるために、自己啓発書などの役に立つ言葉を心にインプットするのが目的。小説を読む楽しみとは別のものです。

長谷川さん流の朝リーディングはこんなふうにおこないます。

○ その日にピン!ときた本を直感で選ぶ。

○本は通読せずに、なりたい気分に適したページを拾い読みする。
 (だから3冊いっしょにバスルームに持ち込むのですって)

○入浴する前に水をたっぷり飲む。

○お湯の温度はあまりぬるくしない。
 (ぬるめのお風呂は就寝前のリラックス向き)

じつは私も起きてから入浴し、のんびりバスタイム読書をすることがよくあります。
そのためにバスブックスタンド=バスタブのふちにかけて使うステンレス製のブックスタンドを買いもとめたくらいなのですが、長谷川里恵さんが自分を高める「朝リーディング」なら、私の場合は小説の喜びに浸るエピキュリアン・リーディング、もしくは「おはらしょうすけさんリーディング」です。

111126kawag2.jpg※おはらしょうすけ…民謡で「朝寝、朝酒、朝湯が大好きで」と歌われる小原庄助さん。のらくらした道楽で「身上をつぶした」、つまり破産したことになっていますが、それはまったく、ごもっとも。

適温のお風呂につかって、勇気を充電してくれる言葉をたっぷり吸収する朝リーディング。一度試してみようかと思います。

考えどころは本選び。どんな言葉を読めば自分の気持ちがしゃきっとして背筋が伸びるのか、知っていなければいけません。

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2010年11月19日(金曜日)

渋谷「八竹亭」のおじさん、カフェに行く

東京カフェマニア主宰 川口葉子

かつて渋谷にあった定食屋「八竹亭(はっちくてい)」は、界隈の人々にとっては有名なお店だったよう。ポイントは、鮭のバター焼き定食をはじめとする直球のおいしさと、店主の独特なキャラクター。

煮ても焼いても食えないおやじである。
無愛想で「いらっしゃいませ」も言わない。
でも、ごはんはどんぶり一杯の大盛りで気前がよかった。

…などと、じつにさまざまな言われようですが、お店の場所がフジテレビのドラマ収録をおこなっていた渋谷ビデオスタジオ(取り壊されました)やNHKに近かったことから、八竹亭に足繁く通ってきた有名人は多数。

たとえば、演出家の蜷川幸雄や木村拓哉。彼らは納豆を用意してくれるよう八竹亭のおじさんにお願いしていて、木村拓哉はお店に来ると勝手知ったるようすでカウンターの中に入り、冷蔵庫を開けてマイ納豆を取り出していたそうです。

101119kawag.jpg先日、私がその元・八竹亭のおじさんから聞いた話。
「渋谷警察署から感謝状をもらったことがあるんだよ」

女性の飛び降り自殺をとめたんだそうです。道を歩いていたら、ふと、ビルの4階の窓から女の人がぶらさがっていることに気がついたとか。
おじさんは4階に急行して女性の腕をつかんだものの、
「重いんだよね、女の人でも。支えていることはできるけど、引き上げられないの」

というわけで、通りかかったもう一人の助けを借りて無事救出!

後日、渋谷警察署から感謝状をさしあげたいと連絡がありましたが、「取りに行かなきゃなんないなら、いらないよそんなもの」…といかにもおじさんらしい反応。警察の人がおじさんの家に感謝状を持ってきたそうです。

それだけなら「なるほどよかったね」という単純なお話ですが、このエピソードには「あらゆる行為はまわりまわって自分のもとに帰ってくるもの」と納得するような後日談があったのです。

後年、おじさんは渋谷の交差点で大きな交通事故に遭ってしまいます。頭蓋骨を複雑骨折する重症。
駆けつけた救急車の隊員が偶然にも八竹亭のお客さまで、倒れているおじさんの顔を見るなり、「あっ、八竹亭のおじさん!!」

そして、救急車がすばやくおじさんを運び込んだ病院の当直の医師というのが、またもや八竹亭のお客だった人。患者の顔を見て、「あっ、八竹亭のおじさん!!」

運の良いことに、当直にあたっていたその先生は脳外科の権威。事故発生から1時間後には、おじさんはもう手術台の上で名医の執刀を受けていたのです。おかげで後遺症もまったくないとか。

ふたつの話を聞いた人が言いました。「おじさん、これでちゃらだね」

* * *

時代に流れに取り残されたせいか、やむなく八竹亭を閉めることになったこのおじさん。本名は江尻さんとおっしゃるのですが、今年70歳。

閉店後はどこにも行き場がなかったはずなのに(住まいは店舗とセットで借りていたから、もう暮らす家さえなくて困るという状況だったようです)、とてつもなく不思議なご縁によって、現在、渋谷の東急ハンズ近くの細道にオープンしたカフエマメヒコ・パート3で、とんかつを揚げています!

おじさんが亡くなったと思って悲しんでいる八竹亭ファンの皆さま、ぜひ再会しに行ってみてくださいね。おじさんは元気です。とんかつを揚げていないときは、糸の切れたあやつり人形みたいですが…。

カフエマメヒコ・PARTⅢ 東京都渋谷区宇田川町38-1  エランビタールフクシマビル3F
TEL 03-3780-0045
OPEN 喫茶11:00~23:00、とんかつ14:00~23:00

(なぜ、おじさんがカフエマメヒコに?!というお話は、今月中にAll About[カフェ]の記事でお伝えします。運命と呼ぶ人もいるし、私はカフェの天使がおじさんを導いたのだと思っています(笑)

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2010年11月13日(土曜日)

カフェのドッグマナー

東京カフェマニア主宰 川口葉子

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(写真右)
ミコノス島のカフェで出会った名物ペリカン。
お店のご主人が小魚をあげていました。

代官山のカフェ、holyの入口そばにある棚で、「I Love Cafe Manners」と書かれた小さなチラシをみつけました。

オーナーにうかがったら、愛犬家のチームがドッグマナー向上を呼びかけるチラシを作り、いろいろなカフェに置いているのだそうです。その活動の発端となったのがholyなのだとか。

犬といっしょに楽しめるカフェが増え始めた初期には、飼い主の方々はずいぶん他のお客さまの迷惑にならないよう気を遣っていたように思います。犬の毛をソファに残さないようドッグマットを敷いたり、うるさく吠えないようにしつけてから来店したり。

そういう公共の場での心遣いが、このごろずいぶん崩れてしまったようです。holyではこれまでペット連れのお客さまも歓迎していましたが、ペット禁止にしようかと考えはじめたとか。

オーナーの言葉を聞いた愛犬家の方々が思い立ったのが「カフェマナーUPプロジェクト」。
一部の飼い主のマナー違反が原因で、せっかくペットに扉を開いていた飲食店がペット禁止の方針に変わってしまうのは悲しいと、ドッグーマナーの向上を呼びかけているそうです。

※その方々のWebサイト、「I Love Wan Life」はこちら

小さなチラシには、「10 happy manner」として次の項目が挙げられていました。

1. 人間用の食器を愛犬に使わせないでください。
2. テーブルに足や顔を乗せないでください。
3. カフェで粗相させないでください。
4. むやみに吠えさせないでください。
5. マットなしで椅子の上に座らせないでください。
6. トイレシートを広げないでください。
7. 決してリードを放さないでください。
8. 座席に抜け毛を残さないでください。
9. お店の周りにマーキングさせないでください。
10. お店独自のルールは守って活用しましょう。

飲食店側からではなく、飼い主の側からこういう呼びかけがなされているところが素敵ですよね。

holyでは飼い主にきちんと注意する方針ですが、小さな気の弱い(?)カフェでは、ペットに困らされるシーンがあっても、お店の人が飼い主に注意できないことが多々あるのですって。
そういう弱気なカフェから「うちのお店にもこのチラシを置きたい」と引き合いがあったりもするそうです。

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2010年11月05日(金曜日)

究極のリップクリーム、ジョンマスターズ・オーガニック

東京カフェマニア主宰 川口葉子

冬になると欠かせないのがリップクリーム。子どものころはリップクリームなんて塗らなくても平気だったのだけれど。

30歳を境目にして、口紅を塗った数時間後には唇の中央の皮が薄くむけてしまうようになりました。化学物質に過敏になったのですね。

困ったことに、そんな唇の過敏ぶりは年ごとに増すばかり。
以前なら、ドラッグストアで気軽に売られているリップクリームを下地に塗っておけば、口紅をつけてもなんとかなったのですが、ここ数年はオーガニックなリップクリームじゃないと受けつけなくなってしまいました。

それならいっそ、リップクリーム・グルメを楽しんでしまおう。
……というわけで、国内外の“自然派”メーカーをかたはしから試してきました。ロクシタンのシアバターからスタートした、リップクリーム・グルメの旅。

旅の到達地点かと思われたのが、ドクター・ハウシュカとアグロナチュラです。

101105kawag.jpg私はイタリア生まれのオーガニックコスメ、アグロナチュラの薔薇のシャンプーとリンスを愛用しています。
そして去年からスキンケア製品を使っているのが、ドイツ生まれのオーガニックコスメ、ドクター・ハウシュカ。

両メーカーともにリップクリームを発売していて、なかなか使い心地が良いのです。ことにアグロナチュラの薔薇のリップクリームはとろりとしていて香りもよく、塗るとたちまち油分で潤う感じ。
どちらかを必ず化粧ポーチに入れておくのですが、それでも持続時間は2、3時間というところ。

外出先の化粧室で鏡を見たとき、唇に小さなかさぶたのような薄皮ができて、めくれそうになっているのを発見するのは悲しいものですよね。

そんな過敏唇の救世主を、とうとうみつけました! ジョンマスターズ・オーガニックの「リップカーム」です。

これは本当に唇に優しくて、何時間たっても皮がむけないのです。
メイク3時間後の小さな憂鬱が、これでやっと解消。口紅の下地として手放せないものになりました。

同じ悩みを持つ人に、おすすめしたく思います。
(でも、ジョンマスターズのシャンプーは私の髪を乾燥させてしまう。相性とは不思議なものですね)

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2010年10月22日(金曜日)

cafe SKIPA(カフェ・スキッパ)…神楽坂

東京カフェマニア主宰 川口葉子

101022kawag2.jpgニール・サイモンといえば最上級のウェルメイド・コメディで知られるブロードウェイの脚本家。

この人の代表作のひとつに、タイトルを忘れてしまいましたが、ニューヨークの古いアパートの最上階に住む新婚カップルのお話がありました。
まだ若い二人が住む貧乏アパートにはエレベーターがなく、部屋を訪ねる人々はとんでもない階段をのぼらなければならないのです。

そのため、登場人物が舞台に現れるときは「長い階段をようやくのぼりきった直後」という設定。役者という役者がかならず激しく息をきらして現れるので、そこがまた笑いを呼ぶわけです。

***

オープンしたばかりのcafe SKIPAで、ニール・サイモンのそんなお芝居を思い出したのは、新しいカフェが古い喫茶店と内部でつながっているから。
壁をへだてて右側は喫茶店トンボロ、左側はcafe SKIPAです。トンボロから小さな入口をくぐってSKIPAに移動するときに、私は頭をしたたかに壁に打ちつけたのでした。

もしもトンボロからSKIPAに入ってくる人が全員うめきながらおでこを押さえていたら、ニール・サイモンの素敵なコメディだ!…などと、しびれるおでこを押さえながら考えてしまったのです。

101022kawag1.jpgたまたま開店のお花をみかけてのぞいてみたcafe SKIPAは、トンボロのオーナーの息子さんご夫婦が始めた小さなお店。

オープンしてまだ2、3日とのことでしたが、息子さんはオヒョイズのワイン担当だったとのことで、真新しい店内にもどことなく和やかな空気が漂い、路地を通りかかった人々が物珍しそうに中をのぞきこんでは、次々に入ってきます。

メニューはまだこれから状況を見て揃えていきたいとのことで、現在は焼きお菓子や紅茶、奥さまがブレンドするハーブティー各種(600円)が中心のよう。

自慢は、オヒョイズの夏目シェフ直伝のチーズのパイ(550円)。ピザ生地の上にデンマークのサムソーチーズをのせて焼いたシンプルなパイで、たっぷりちらしたローストアーモンドが香ばしく、素直なおいしさ。

店名の由来を訊ねたら「僕がすきっ歯なので…(笑)」。笑顔のとても素敵な、そしてニール・サイモンのくだんの舞台の主役にもふさわしい、若いお二人でした。

cafe SKIPA
東京都新宿区神楽坂6-16
Tel 03-3267-3839

こちらでカフェ店内の写真をご紹介しています。

(写真右)この建物は、かつては左派の小さな新聞社の編集室として使われたこともあったそうで、古めかしい暗室の扉が再利用されていました。反対側から見ると「写真室」と旧字体で書かれています。

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2010年10月15日(金曜日)

村上春樹×Cafe螢明舎、『カンガルー日和』余談

東京カフェマニア主宰 川口葉子

101015kawag1.jpg昨日、All About[カフェ]の記事でご紹介した千葉県市川市のカフェ、螢明舎(けいめいしゃ)。
村上春樹が80年代に書いた書籍未収録の小エッセイのなかに、螢明舎の習志野・谷津店についての文章があるそうです。

ハルキストとしては見逃すわけにはいかない貴重なその文章を読みたくて螢明舎のオーナー、下田さんにお願いしてみたのですが、掲載された月刊誌は残念ながら行方不明。
「倉庫の中まで探しましたが、発見できませんでした」

Cafe螢明舎のHP上で、村上春樹と下田さんのご縁がかいつまんで記されています。

それはまだ下田さんがカフェをオープンする前のこと。
画業とカフェ経営の両立を志していた下田さんは、「ジャズ喫茶を経営しながら小説を書いている男がいる」と知人から聞いて、その「男」を紹介してもらうことに。

その「男」こそ、千駄ヶ谷で(いまや)伝説のジャズ喫茶&バー「ピーターキャット」を営んでいた小説家デビュー前の村上春樹でした。下田さんは村上春樹の第一印象をこう記しています。

  紹介され、少ない言葉を交わしたのですが
  なんとも頼りないぼんやりした印象で…
  「こんなおとなしそうな人がやれるなら私に出来ない筈がない」

快活で声の大きな下田さんと、内省的でぼんやりした村上春樹との会話はさぞちぐはぐだったことでしょう。それはきっと、鮮やかなカラー映画とモノクロ映画のように。想像すると微笑が浮かびます。

101015lawag2.jpgそれでも当時、習志野市在住だった村上春樹は何度かCafe螢明舎を訪れ、そこから短編『カンガルー日和』に通じるご縁が生まれたそうです。

谷津遊園内にあった動物園。その閉園後の動物たちの行方などについて取材したいと考えていた村上春樹に下田さんがご紹介したのが、Cafe螢明舎のお客さまだった園専従獣医さん。

「村上さんも無口、獣医さんも無口。噛みあわない時間の経過が大変おかしかったのを覚えています」と下田さん。

まあたしかに、如才なく世間話に興じる村上春樹というのは、ハルキストのイメージの中の村上春樹像からもかけ離れていますよね。

作家はその作品によってのみ評価されるべきであり、日常生活においてただのぼやっとした人にしか見えないのはご愛嬌…と、明らかにぼんやり者のほうに属する私は思うのです。

Cafe螢明舎(カフェけいめいしゃ)
千葉県市川市八幡2-4-9 かんていビル2F
【TEL】 047-336-3545
【最寄り駅】京成線「京成八幡」駅南口より徒歩2分
 またはJR総武線・都営新宿線「本八幡」駅より徒歩3分

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2010年10月10日(日曜日)

ゾッターさんのカカオニブ+チーズ、もしくは蔦珈琲店の小さな奇跡

東京カフェマニア主宰 川口葉子

101010kawag1.jpg青山の蔦珈琲店のカウンターに座っておりましたら、隣にいらしたお客さまがカレーを注文。珈琲とスイーツだけだと思っていたけれど、じつはこのお店には食事メニューがあったんですね?

ちょっと意外でしたが、マスターいわく、「むかし青山にはランチ難民がたくさんいて、その人たちに頼まれてハヤシライスを作っていたんですよ。でもハヤシライスって、毎日自分でも食べていると、甘いから飽きるのね。それでカレーに変えました」

「あのハヤシライスも旨かったですよ」とお客さまが請け合う様子が好ましくて(カウンターごしにマスターとお客さまの間にさりげない信頼関係が結ばれている光景をかいま見るのは、いつだって愉快なものです)、その後のマスターとお客さまとの会話を聞くともなく聞いていたら、話はなんだか聞きおぼえのある方向に。

興味をひかれてお客さまにお尋ねすると、その方はなんと、私が熱愛するゾッターさんのチョコレートを日本で唯一、輸入販売している会社の代表の方だったのです。ああびっくりした。韓流ドラマ並みの偶然が、小さな珈琲店のカウンターに降ってくるなんて。

帰宅後、昨春にゾッターさんがオーストリアから来日して公演をおこなった際の写真を探したら、壇上のゾッターさんの隣にその方が写っていました。

蔦珈琲店でお目にかかった日は、ちょうどゾッターさんの今秋の新作が成田空港に到着したところ。ほどなくその方の携帯に「いま通関!」のご連絡が入り、臨場感のおすそわけをいただきました。

101010kawag2.jpg教えていただいた今秋おすすめのゾッターさんのカカオニブの楽しみ方は、チーズとカカオニブをあわせて、ワインやブランデー、ウイスキーなどのお供にすること。

さっそくシングルモルトとともに試してみました。くせのないゴーダチーズをスライスして、カカオニブをトッピング。鼻を近づけると、チーズの香りとともに鮮明なカカオの香りが際だち、口に入れれば、チーズのまろやかさにカカオのほろ苦さ、かりっとした食感が最高のアクセントになって、もうたまりません。

でもカカオニブって、通常はお菓子の材料に使うものですよね?

「カカオニブをこのよう召し上がっていただけるのは、ゾッターが最高品質のクリオロとトリニタリオ種のカカオのみを使っているからで、普通のフォラステロ種の豆では、お菓子などに応用しなければ、そのままでは渋くて食べられません。このカカオニブ、まもなく関西にお店のあるカーヴ・ド・テールという素敵なワインショップでのお取り扱いが始まります」

なるほど!
ご自身がニューヨーク滞在中にゾッターさんのチョコレートに出会い、その味に魅了されてほそぼそと日本への輸入販売を始めたというだけあって、説明にも愛が感じられますね。あ、ほそぼそと、は余計だったでしょうか。

私がなぜゾッターさんのチョコレートを好きになったかといえば、一般的にはフェアトレードもオーガニックも、取り組みの素晴らしさと製品のクオリティが必ずしも一致しないという悩みをかかえているのですが、ゾッターさんのチョコレートはその全てにおいて見事なクオリティ、アーティスティックなクリエイションが実現されているから。本当に稀有な存在なのです。

今年のホワイトデーには夫に「ゾッターさんのチョコレートを」と指定して、代官山のヒルサイドパントリーに置いてあった全種類を買ってきてもらいました。ホワイトデーに関しては、夫の自由意志はありません。(バレンタインデーも、ですが…)

このほかGAIA、恵比寿のワインマーケットPARTYなどでも購入できますし、西荻窪の茶舗あすかさんにはここだけの限定販売チョコレートがあるようです。日本茶によく合うその風味は、ジンジャーをダークチョコレートで包み、ターメリックパウダーをまぶしたもの。

目をみはるほど魅力的でインスピレーションに富んだ風味の数々が展開されているゾッターさんのチョコレートですが、最初の一枚としては、薄い板チョコレート「ラブーコシングル」(440円)のストロベリーなどがおすすめでしょうか。濃密で甘酸っぱくてもどこか柔らかで優しいイチゴの魅力がチョコレートに溶けあわされた、美しい一枚。

おいしさのあまりうっかり食べ過ぎても気持ち悪くならないというのも、ゾッターさんのチョコレートの幸福のひとつです。

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2010年10月02日(土曜日)

『いちばんおいしい日本茶のいれかた』

東京カフェマニア主宰 川口葉子

101002kawag1.jpg神楽坂にある日本茶カフェ「茜や」の店主、柳本あかねさんから、素敵な本をお送りいただきました。
タイトルは『いちばんおいしい日本茶のいれかた』(著:柳本あかね/朝日新聞出版/1100円+税)。


  ほんとうにおいしいお茶って
  おだしみたいに深い味がするんです。


そんな印象的な言葉で始まる一冊です。

柳本あかねさんは装丁家、建築家の仕事のかたわら、日本茶カフェを営んでいる女性で、日本茶ソムリエの資格を取得されています。余白をいかした美しいブックデザインも、ページを繰って奥付を確認したところ、もちろん柳本さんご自身でした。

優しい口調でわかりやすく綴られているのは、煎茶・玉露・ほうじ茶をはじめとするお茶のいれかたや、お茶をいれる道具のこと、お菓子のこと、それから、お茶の時間を楽しむためのお花や香り、和の道具などのこと。

カフェの香りがする本ならではの魅力のひとつは、伝統的なお茶のいれかたのほかに「煎茶ラテ」や「お茶のかき氷」のレシピも取り上げられていることでしょう。

101002kawag2.jpgそれから、夏にひんやりと喉をうるおす冷抹茶は、シェーカーに氷と水と抹茶を入れて、シャカシャカとシェイクするのですって。


  お茶をされている方からお叱りを受けそうな
  「邪道」ともいえるシェーカー抹茶。
  でも実はこのいれかた、
  京都の由緒正しいお茶屋さんに
  教えていただいたんですよ。


堅苦しい枠組みにはとらわれず、でも、きちんと美しくおいしいおもてなしを。そんな日本茶カフェのしなやかな姿勢が伝わってくる素敵な本です。

日本茶 茜や(あかねや)
東京都新宿区袋町24
【TEL】 03-5206-7990
【OPEN】 水曜~土曜の12時~18時

※All About[カフェ]でご紹介した公園そばの古い建物から、少し離れた場所に移転されました。でも、おなじ神楽坂。そしてやはり、築50年を超える古い民家を使われています。

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