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2005年11月04日(金曜日)

喫茶店の喜び・作り手の場合

東京カフェマニア主宰 川口葉子

051104kawag2.jpg札幌へ、コーヒーをめぐる旅に出かけました。北の国の喫茶店はどこもコーヒーがおいしい。カップから立ちのぼるほのかな湯気で少し心をあたためる、そんな場所がたくさんあります。

時計台の裏にある喫茶店「北地蔵」は、カフェ好きにはよく知られたお店です。一度聞いたら忘れられない名前、誰もが語る落ちついた佇まいの魅力。東京を発つ前から、北地蔵には必ず立ち寄ろうと心に決めていました。

午前の静かな北地蔵の店内にはお客さまが3人。いずれもひとりで訪れた初老の女性ばかりで、それぞれがカウンターの上に本をひろげていました。ひっそりと、良い時間の匂いがたちこめています。私もその中に混じって、白地に薄青い梅の花が描かれたカップでコーヒーをいただきました。

そのふくよかな時間の印象が忘れられず、2日後、札幌を去る前に再び北地蔵を訪れました。

051104kawag1.jpg「お地蔵さんのような店になりたい。なれるはずがないのですが、だからこそよけいに。そんな意味を込めた店名です」
オーナーはそう言いました。もう30年ばかり続いている喫茶店ですが、「長い歴史の中で、嬉しかったことは何ですか」と尋ねると、意外な答えが返ってきました。

「ひょんなことがあるのが嬉しいですね。暖簾(のれん)に描かれた道祖神に会ったりね」

北地蔵の店内で、実際にお地蔵さまがデザインされているのは暖簾だけです。その暖簾のデザインのもとになったのは、どこにあるともわからない道祖神の写真だったのだそうです。

「ひょんなことから、先日、その道祖神が長野の真田村に立っていることがわかりましてね。私は長野が大好きで、友人たちも長野にいるし、私の結婚式も長野で挙げたんです。不思議なご縁を感じました」

オーナーはその道祖神に会うために真田村に出かけ、小さな像のまわりの清掃をして、花を供えてきたそうです。

何十年もの間、朝の決まった時間にお店のシャッターを開け、一日じゅうお客さまのためにコーヒーをたて、パンを焼き、夜、お店を閉める。淡々と積み重なっていくそんな毎日を支えるもののひとつは、ときどき小鳥のように飛んできて、思いがけない喜びを与えてくれる「ひょんなこと」なのですね。

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2005年10月28日(金曜日)

百の誓いを立てて

東京カフェマニア主宰 川口葉子

051028kawag.jpg肩こり改善のために、月に何度か横浜まで気功を受けに行きます。気功と聞くとなんだかうさんくさく思う人もいるでしょう。実は私も半信半疑で受けているのですが、横になっている私に先生が気を送ると、不思議なことに両手両足がぴりぴりとしびれたり、ふわりと温かくなったりします。

TVで見かける気功では、眉間にしわを寄せて「はっ!」などと気合いを入れたり、瞑想状態に入ったりするようですが、先生はいたって気楽に冗談を連発しながらやっていらっしゃいます。先生、もうちょっとまじめに気に集中してください、と言いたくなることもありますが、そのような集中と気は、どうやらあまり関係がないようです。

先生はときどきおもしろい話を聞かせてくれます。「調子はいかがですか?」と尋ねられて、「体調はいいのですが、精神的には、怠け者の自分を情けなく思っています」と答えたときのこと。

「私たちはこの世に誕生するとき、どうしてもこの地球上に生まれたいと願って、100年も200年もチャンスを待つのだそうですよ。生まれたくて生まれたくて、山ほど誓いを立てて、両親となる人を選んで、やっと生まれてくるんだとか」

ふと、よく晴れた夏の日にベランダで読書していたとき、私は生まれたくて生まれたくて、この世に生まれてきたのだと、何の根拠もなしに感じたことを思い出しました。

「そのくせ、いざ人間として人生を歩き始めると、自分がどれほど一生懸命に『生まれたらこんなふうに生きます』と誓ったか、きれいさっぱり忘れてしまうんです」と先生。そんな大切な誓いをなぜ忘れてしまうのでしょうね、と尋ねてみました。

「それはきっと、自分の力で見出さなければ意味がないからでしょう。回答つきの問題集を持って生まれてきたら、おもしろいですか?」
「私、きっとズルして最初に答えを全部見てしまいます」
「そうでしょう(笑) それじゃあ全然勉強になりませんからね」

百もの誓いを立て、生まれたいと心から願ってこの世にやって来たのだとしたら、どれほど自分がつまらないことばかりしているとしても、「私はなぜこんなところでこんなことをしているのだろう?」と疑問を抱くばかりだとしても、今、ここでこうして生きているのは本望なのですよね。

とりあえず、生きて呼吸をしているだけで幸運。そんなふうに考えたら、心が軽くなりました。青空が気持ちいいと感じている時間も、私ってなんて情けないのだろうと思っている時間も、みな等しく金銀に輝いているようです。

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2005年10月21日(金曜日)

横浜のオープンカフェ

東京カフェマニア主宰 川口葉子

051021kawag1.jpg横浜の山下公園近く、海に向かって伸びる美しい並木道「日本大通り」では、横浜市によるオープンカフェの実験がおこなわれています。

明治時代に設計された街路の両脇には歴史を重ねてきた洋館とイチョウの樹が並び、気持ちのいい広い舗道がまっすぐに続いています。その通りに面したお店が、広い舗道にそれぞれのパラャ汲ミろげているのです。

どのお店も、パラャ汲ュ落た四角い形に統一。日本初登場のこのパラャ汲ヘ、風の影響を吸収するように設計され、まるで鳥かごのように上から吊られています。
…とはいえ、風の強い日や雨の日は、やっぱりお休みになってしまうのですって。風雨にさらされ、歯を食いしばってまで屋外でコーヒーを飲みたいとは誰も思いませんものね。

051021kawag2.jpgアルテリーベの前の舗道には、パリの街角の風景そのままの籐椅子とギャルャ刀Bデザイン集団grafが出店したgraf media gm:Yokohamaの奥には、舗道に面した入り口からは想像もできない広々とした空間に、草間恊カとgrafがデザインしたソファが並んでいます。

この水曜日、銀杏を拾う人々を見かける午後に、アルテリーベのテラス席でお茶を楽しみました。空の下、緑を眺めながら飲んだり食べたりすると、2倍おいしく感じることにはみんな気がついています。ちょっと暑い日もちょっと寒い日も、まずオープンテラス席から椅子が埋まっていくのですって。

▼日本大通りスペシャルサイト

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2005年10月14日(金曜日)

決して代用品ではなく

東京カフェマニア主宰 川口葉子

051014kawag.jpg表参道のBROWN RICE CAFEは、おいしいものを通してライフスタイルから地球環境まで、WHOLE=”まるごと”提案するお店。
ホールフードという考え方を、肩をいからせず柔らかな口調で語りかけながら、しっかりと芯の通った姿勢をすみずみまで貫いていて、目の前が明るくなるような魅力を感じます。

このカフェに関わるスタッフは、お店で扱う安全な野菜や調味料を選ぶために、わざわざ全国の生産者のところまで出向いて何度もじっくりと話し合いを持ち、おたがいに心から信頼できるかどうかを確認しているのです。農家の人といっしょに田植えをしたり、味噌を仕込んだりもしているというから驚きです。
カフェで使われる林檎ひとつ、タマゴひとつをとっても、丹精こめてそれを育てている人々の顔と、それぞれの持つ物語とが豊かにたちのぼってきます。

BROWN RICE CAFEの工房でナチュラルスイーツを手作りしているスタッフに、お話をうかがったことがあります。ここでは、バターや牛乳、クリームなどの動物性食品や砂糖は使いません。全粒粉のスコーンに添えられたほんのり白いクリームは、豆腐で作られていました。その<ャCクリーム>のおいしさに目をみはった私に、スタッフは笑顔で話してくれました。

051014kawag2.jpg「お豆腐で作ったクリームは、生クリーム<もどき>の代用品と思われがちですよね? でも、私は決して代用品とはとらえていません。お豆腐にはこんな新しいおいしさがあるんだということを、召し上がった人に発見して楽しんでいただきたいのです。私たちが作るスイーツはみな、<もどき>ではなくて主役だと思っています」

そこには、本当は生クリームを食べたいのだけれど健康が心配だからがまんする、という発想がありません。おいしいからャCクリームを選ぶ。それが身体にもやさしい。やせがまんなど必要ないのです。なんて痛快な!

また、バイオダイナミクス農法で育てた葡萄を用いて添加物を一切加えずに作るワインは、きりりと引き締まったおいしさで和食によく合い、「思わず1人で1本飲んでしまっても、翌朝まったく残らないのです」というではありませんか。まさに大地と天の恵み!

今朝ちょっとばかり二日酔い気味だった私は、来月からカフェのメニューに登場するというこのワインが待ち遠しくてたまりません。

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2005年10月07日(金曜日)

ecute品川にて、メープルシロップづくし

東京カフェマニア主宰 川口葉子

051007kawag2.jpg10月1日、JR品川駅の酷烽ノecute品川(エキュートしながわ)がオープンしました。これが改札口の中?と目を見はるようなさまざまなショップの集合体。スイーツのお店、デリカフェ、アロマサロンなどが色とりどりの光を放ち、人々を引き寄せています。

そのなかのひとつ、「QBG ル パティシエ タカギ」をのぞいてみました。ショーケースには、おなじみル・パティシエ タカギの高木康政氏と、ナチュラルスイートメーカーQBG(クインビーガーデン)のコラボレーションによるスイーツが並んでいます。

こちらのお菓子は身体に優しいメープルシロップとはちみつがテーマ。ショップの奥にテラス席が設けられ、小さなイートインスペースになっているのを見つけて、あいにくの小雨ではありましたがケーキをひとつ食べていくことにしました。

051007kawag1.jpg選んだのは、濡れたようにしっとり光るクリームに包まれたメープルショートケーキ。その形はいちご色の炎をともしたロウソクを思わせます。

カウンターでドリンクを注文してからテラス席に座ると、スタッフがケーキ、コーヒーといっしょにメープルシロップの瓶を運んできました。
「コーヒーにはメープルシロップを入れてお召し上がりください」

なるほど、ここではお砂糖というものを使わないのですね。フォークを入れた生地にもメープルシロップの懐かしく素朴な甘さがしみこんでいました。

このスイーツタイムのおかげで待ち合わせに10分遅刻してしまいましたが、電車乗り換えのために降りた品川駅のホームで、気がつけば30分も楽しんでいたという人たちが続出しているのではないでしょうか。

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2005年09月30日(金曜日)

夫婦というもの

東京カフェマニア主宰 川口葉子

050930kawag.jpg私は誰かが夫を傷つけたりしたら許さないと思っています。こころねの優しい彼は、どんなときでも相手が悲しむような言葉を決して口にしないのです。そんな人間の常として、ほかの人の無神経な言動が針のように心に刺さってしまいがち。彼が優しいように、世界も彼に対して優しくあってほしいと願わずにはいられません。

そのくせ私は、自分だけはどんなに夫を傷つけてもいいと無意識のうちに考えているのです。だんだん後頭部の髪があやしくなってきた彼にむかって、つい言ってしまいました。
「つむじが、気象衛星から見た巨大ハリケーンにそっくり!」
「このハリケーン、時速何キロで北上するのかしらね?」

世界でいちばん残酷なのは妻だと、彼には思われていることでしょう。

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2005年09月23日(金曜日)

赤とんぼ

東京カフェマニア主宰 川口葉子

このところお風呂の調子が悪いので、マンションから歩いて5分のところにある銭湯に通っています。銭湯は天然の黒湯温泉で、濃いプーアール茶の中につかっているよう。サウナやジェットバス、小さいながら露天風呂も備えています。

ことさら注意深く見ていなくても、おしりのかたちが本当にいろいろであることに気がつきます。薄いおしり、厚いおしり、四角いの、でこぼこしてかぼちゃに似ているの、ぴかぴかの林檎を思わせるの。朝一番の10時に入りに行った日は、その時間帯が一番にぎやかであることを知りました。ご近所のおばあちゃんたちが午前の光の中でほんのりとふやけているのです。朝一番のほうがお湯の温度が2度ばかり高いことも発見しました。

ある午後、お風呂あがりにラウンジのソファに座り、全身がゆるんでいるのを感じながら冷たい炭酸飲料を飲んでいると、入り口に小さなおばあちゃんが現れました。彼女はおぼつかない足取りでフロントへ行き、鍵のようなものを受け取って御礼を言っています。

それからおばあちゃんはゆっくりと歩いてきて、私の横に腰をおろしました。
「うちに帰って玄関を開けようとしたら、鍵がないのよ。鈴つけてるのに、ここで落としたのに気がつかなかったなんてねえ」

彼女が見せてくれた鍵には、鈴が二つついていました。誰かが拾ってフロントに預けてくれてよかったですね、と言ったのですが、おばあちゃんは悲しげに小さな声で言いました。
「ばかになっちゃったのかしらねえ」

ふと、お年寄りは自分に自信を失うと、一気に物忘れがひどくなるという話を思い出しました。これは急いでなぐさめなくては!
「大丈夫ですよ。私もしょっちゅう鍵をどこに置いたのか忘れたり、お財布を落として探し回ったりしていますから!」

しかし、おばあちゃんは「ばかになっちゃったのかしらねえ」を繰り返すばかりです。一生懸命になぐさめながら、ふとひらめきました。しっかり者から「私も同じような失敗をする」と言われれば気も軽くなるでしょうが、いかにも忘れ物の多いうっかり者に見える私から励まされても、ちっとも説得力がないのでしょう…。

050923kawag.jpg炭酸飲料を飲み終えて立ち上がった私に、おばあちゃんは小さな声で言いました。
「ありがとうね」

なんだか、どちらがなぐさめてもらったのかわかりません。外に出ると、夕空に雲が巨大な赤とんぼとなって飛んでいました。

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2005年09月16日(金曜日)

葉山の<太陽の光と雲>の店で

東京カフェマニア主宰 川口葉子

050916kawag.jpg晴れた日に二人で葉山に出かけました。こんもりした緑は夏のままですが、半袖の腕を吹いていく風の感触はすでに秋です。

静かな住宅街にある小さなレストランで、スパークリングワインを飲みながらアワビ茸のピザや紅イカのガーリック炒めなどでランチを楽しんだあと、太陽の光と雲、という意味(たぶん)のショップをのぞきました。さりげないシャツの、厚みのあるやわらかさがいい感じ。

そこで買ったのは1冊の本でした。大阪の丘の上にあるカフェの店主が綴った小さな本。ずいぶん前に書店でも見かけたのだけれど、好きなカフェのことが書かれた本だから、少し特別な場所で買いたいと思っていたのです。葉山の<太陽の光と雲>のショップは、その本を買うのにふさわしい場所に思えました。

レジで店員さんが本を包みながら尋ねました。
「このカフェに行ったことがありますか?」
「ええ、とても素敵なところですね」

店員さんには言えませんでしたが、なにしろ私はこのカフェに惹かれるあまり、ひとつの季節まるごと、カフェの中庭でおこなわれるウクレレ教室に通ったことがあるのです。2週間に1度、ウクレレと旅行鞄を持って、東京から大阪まで。初心者クラスは先生一人に生徒二人の実にのんびりしたものでした。

「カフェがお好きなんですね。よかったらうちのカフェにもお立ち寄りください。すぐ近くですので」

店員さんに場所を教えていただいて、その足でカフェに入りました。昭和時代の小さな一軒家。芝生の庭。なんとも気持ちのいい静けさです。ソファに座って本を読み始めると、連れも私もおもしろいようにページが進みます。

途中で思わず、あ!と小さな声を上げました。本にはウクレレ教室のことも書かれていたのです。レッスンの初日の途中で突然大雨が降り出して納屋に避難し、たらいで雨漏りを受け止めながら練習を続けた「たらい組」と。私はまさしくたらい組の生徒でした。ほかのクラスは星組、月組などと美しく命名されていたのですけれども。さらにページをめくると、「東京から新幹線で通っていた人」のことも。

別のページには「カフェマニア風の男性」も登場していましたが、たちどころに顔が浮かび、1冊の本のなかで懐かしい風景、懐かしい人々にたくさん再会することができました。

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2005年09月09日(金曜日)

パンケーキの天国へ

東京カフェマニア主宰 川口葉子

050909kawag1.jpg新しくオープンしたパンケーキ専門カフェで、おすすめの一品をオーダーしてみました。運ばれてきたそれは、思わずと驚きと喜びの声をあげてしまったボリュームと美しさ! 私、瞳孔が思いきり開いていた気がします。

スイーツに対して、こんなにシンプルでダイレクトな嬉しさを感じたのは、子どもの頃以来だったかもしれません。有名パティシェが丹精こめた複雑で繊細なスイーツを前にしたときの感動とはまた別の、ただ、笑いがこぼれるような嬉しさです。

ナイフとフォークを手に取ると、遠足に出かける子どものようにわくわくしてきました。実際、それはパンケーキ8枚分の小高い丘にのぼるような「遠足」だったのです。

050909kawag2.jpgふわふわ、もちもちのパンケーキは、オーナーがアメリカ中のパンケーキ粉を集めて試食を繰り返し、いちばん美味しかったというハワイの名店の粉を参考に、日本の気候風土に合うよう開発したもの。そういえばハワイ旅行に行くとき、お料理好きの友人におみやげは何がいいかと尋ねたら、あのお店のパンケーキミックスを買ってきてと頼まれたことがありました。

パフェの上には、親指と人さし指で作った輪くらいのサイズのパンケーキがちょこんと立てられていました。食べる人も、これと同じ顔になっています。

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2005年09月02日(金曜日)

カフェのきっかけ

東京カフェマニア主宰 川口葉子

050902kawag.jpgどうしてカフェを始めたのですか、とオーナーに尋ねると、意外にも、ずっと自分のお店を持つ夢をあたためていたという答えのほかに、ひょんなことがきっかけになったと答えるオーナーがたくさんいます。先週お目にかかった女性オーナーも、もとはといえば、赤ちゃんを育てるのに困りきっていたのがきっかけでした。

彼女の赤ちゃんはとても「かんのむし」が強く、常に抱いていてあげないと泣き叫んで、泣き疲れて眠ってしまうまで止まらなかったそうです。たとえおとなしい赤ちゃんでも、世話をするお母さんは睡眠不足でへとへとになるもの。彼女の場合はそれが特にひどくて、この先どうして育てていけばいいのだろうと途方に暮れてしまったとか。

でも、やがて彼女は、赤ちゃんが深夜の決まった2時間だけは、まるで死んでしまったように深く眠ることに気がつきます。その2時間をどう使うか? 自分の貴重な睡眠時間として眠って過ごすこともできます。でも、彼女は自分ひとりのための時間を持つことが、どうしても必要だと感じました。そして、赤ちゃんが生まれてからずっとできずにいたこと、つまり以前から好きだったお菓子作りを始めたのです。

材料を用意して、ケーキが焼き上がるまでの時間がちょうど2時間。毎日毎日、彼女は深夜に1つずつケーキを焼き続けました。とうてい食べ切れませんから、そのたびにご近所に配って歩きます。そんな日々が続いたある日、彼女の作ったケーキがプロの眼にとまりました。

それが、身体にやさしくおいしい料理を提供するカフェへの第一歩だったのです。何がきっかけになるかなんて、本当にわからないものですね。

ただ、ひょんなきっかけを幸運にも成功に結びつけることのできた人々には、ひとつ共通点があるような気がします。それは、そのとき自分が置かれている状況の中で、自分にできる精一杯のことを探したこと。それが自分を楽しませる内容だったこと。毎日の何気ない小さな選択の中にも、きっかけは、いくらでもちりばめられているようです。

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