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2010年09月24日(金曜日)

『JIMBOCHO 神保町公式ガイド』本日発売

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100924kawag1.jpg世界最大規模の古書店街と言われる神田神保町。2010年8月現在、なんと158店舗もの古書店が軒をつらねているそう。

神保町の全古書店を網羅したガイドブックはこれまで存在しなかったのですが、ついに古書店主たちが自ら、お店と街を案内する「公式ガイド」をつくりました。
私もカフェ&喫茶店のぺージにご協力させていただいたのでご紹介しますね。本日9月24日発売です。

本の表紙はビートルズの『アビイ・ロード』のジャケットにそっくりですが、よく見ると、なんとポール・マッカートニー役の人はちゃんと裸足ですよ! じつはこの写真の方々、神保町の古書店主たちなのだそう。

ガイドブックの目玉はなんといっても古書店紹介のページ。なにしろ店主の方々がご自分で執筆され、「第三者による下手なお世辞は一切なし!」なのですって。

私がときどきお世話になる悠久堂書店さんも、しっかり登場していました。この書店は、1階に食べもの系の古本、2階には山・登山系の古本をそろえているのです。

ガイドブック上では、悠久堂書店主のおすすめとして『決定版・新パスタ宝典』(ヴィンチェンツォ・ブオナッシージ著/12000円)や『世界の料理・全21巻』(タイムライフ社・49000円)などが紹介されていて、食いしん坊心をかきたてられます。

100924kawag2.jpgそれにしても、ディープな趣味の世界を追究する小さな古書店の多いこと! ページをめくっていると思わず笑ってしまうほどマニアックな世界が展開されています。
たとえば、菅村書店さんの自己紹介文:

「はっきりいって大多数のお客さんにとっては、本当につまらないお店です。だって『エンジンのついた乗り物』の本しか置いてないのですから……。しかも一冊ずつビニールパックまでしてあるので、立ち読みもできません。さらに店主は人見知りでへそ曲がりです」

この書店にはクルマ、戦車、旅客機、戦闘機、豪華客船、鉄道と、とにかく乗り物関連書が深く細かく集められているようです。おすすめの本の例が、『YS-11に関する広報資料・パンフレット・生写真』23点セット……。

立川談春(落語家)×らくごカフェ店主の対談、神保町で働く人々によるクチコミランキング (スイーツ編・グルメ編)など、 神保町の魅力を多面的にとらえた一冊です。

ちなみに、私の担当ページは32~33ページですが、めくるめく古書店のページのオーラに圧倒され気味です(笑)

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2010年09月18日(土曜日)

喫茶星霜(大阪)

東京カフェマニア主宰 川口葉子

レコードに「ジャケ買い」があるように、小説には思わず「タイトル買い」をしてしまうような心惹かれる題名がありますね。ある新人作家の『夏の朝の成層圏』もそのひとつでした。

夏の朝の成層圏。

改行して眺めてみても、パーフェクトです。私はろくに確かめもせずにその本を買い、たちまちその小説家が紡ぐ世界に引きこまれていきました。それが池澤夏樹作品との最初の邂逅だったのです。

100918kawag2.jpgコーヒーを楽しむ空間にも、店名買いというものがあるでしょうか。以前から大阪の友人Tさんに良いと聞いていたそのお店の名前は「喫茶星霜」。なんて想像力を刺激する4文字でしょう。

実際に初めてお店の扉の前に立ったとき、この「店名買い」が大成功だったことがわかりました。いささか愛想のない川沿いの街路に、ひっそりした小さな看板。扉を開ける前から心を魅了するたたずまい。

「歳月」を意味する店名にふさわしく、仄白い空間には店主の河野拓郎さんが以前から集めていたという味わい深い古びた品々がぽつりぽつりと置かれていました。
それらがとりすました鋭い貌ではなく、穏やかで角がとれて見えるのは、河野さんのお人柄によるのかもしれません。

天井のランプや小さなロウソクの炎が、そろって「小さな箱の中で淡くまたたく星々」を連想させるのは、星霜という名前がもたらす美しい魔法に違いありません。霜という文字が箱に似ているのですよね。

カフェではなく「喫茶」と名乗っているのはどんな理由によるものですか、と河野さんに訊ねると、カフェは何かを発信する場所という印象があるんです、という答えが返ってきました。喫茶星霜は、音楽やアートを積極的に発信する場所として構想されたのではないようです。

「かといって、うちはコーヒー専門店のような素晴らしいコーヒーが出せるわけではない。喫茶店として楽しんでいただきたいんです」

100918kawag1.jpgそれは謙遜というもので、コーヒーはとてもしっかりしたクオリティ。2種類のブレンドは、ペーパードリップ、またはネルドリップが指定できるようになっていました。深煎りの「星霜ブレンドB」をネルドリップでいただくと、すぐにコーヒー好きの人が丁寧に淹れたコーヒーだということがわかりました。

ちょっとユニークなカレーもあったりと、飲食店としての基本機能は優秀で、カフェともコーヒー専門店とも名乗らないお店の謙虚な矜恃が感じられます。このような空間の美しさと、肩の力の抜けたくつろぎ、おいしさが両立できるのは理想的。

東京のコーヒー店の話などをのんびり交わしたあとで、「本店の味は、支店とは違うんですよ」と河野さんにすすめていただいたのが丸福珈琲店

最近では羽田空港にも支店ができていて搭乗前にときどき利用しますから、大阪名物として立ち寄るには価値が薄いかしらと思ったのですが、なるほど千日前にある丸福珈琲店本店は、他の新しい店舗とは一線を画していました。

「『濃くて苦いだけの珈琲』と思っている若い人たちもいるかもしれませんが、本店の味は決してそうではありません。まあ、淹れる人によっても違うのですが。土日は赤鉛筆を持って競馬新聞をひろげるおじさんたちで一杯になることもあるんですよ(笑)」

じつにじつに、その言葉は真実でした。喫茶星霜は、2010年の喫茶の最良の要素を楽しませてくれるお店であり、老舗の真価に気づかせてくれる懐の深いお店でもありました。

喫茶星霜(きっさせいそう)
大阪市北区天満4-1-2
TEL 06-6354-3518

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2010年09月11日(土曜日)

デイルズフォードからリトルコへ

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100911kawag2.jpg写真左:
来日したデイルズフォード・オーガニックの
国際ビジネスマネージャー、
エリック・ブルーン・ビンドスレヴ氏

イギリスで高い評価を受けるスタイリッシュなオーガニックブランド「Daylesford Organic(デイルズフォード・オーガニック)」が今年11月に日本に上陸します。日本でのフランチャイズ契約を結んだのは片岡物産。今週、英国大使館でおこなわれた発表会に行ってまいりました。

オーガニック先進国、イギリス。デイルズフード・オーガニックは1970年代に英国コッツウォルズ地方でバンフォード卿夫妻が始めた広大なオーガニック農場が原点。その理念は「オーガニックはおいしい」、そして「オーガニックとはライフスタイルである」。

扱われる商品の多くは、ヨーロッパでもっとも権威のあるオーガニック認定団体「ソイル・アソシエーション」(英国土壌協会)の認定を受けたもの。そして、デイルズフォードが展開するレストランは、2年連続ミシュランを獲得したのをはじめ、3年の間に「ベスト・オーガニック・レストラン賞」など国内外の賞を30以上も受賞しているそう。

日本では11月11日、表参道のラ・ポルト青山の1階・2階に誕生します。1階はカフェ、ベーカリー、グロサリー、2階が50席のレストランとなる予定とのこと。

ブラウンライスカフェやクレヨンハウス、PURE CAFEなどを筆頭に、東京では早くからオーガニックカフェが充実していた表参道エリアに、期待の実力派が登場。楽しみですね。

その帰りに、十条のギャラリーカフェ「リトルコ」へ。行きたいと思っていたイベント「Kind of Cake コーヒーのための。」の最終日だったのです。

これはSunday Bake Shopのお菓子職人、嶋崎さんがつくるお菓子たちと、3人の個性豊かな焙煎職人のコーヒー豆~ねじまき雲coffee caraway、マスターズ~の組み合わせが楽しめる、コーヒーとお菓子の好きな人間にとってはたまらない5日間。

100911kawag1.jpgリトルコの空気感のなかでいただく、しっかりしているのにじつに嫌みのない「ラムレーズンバタークリームサンド・シフォンケーキ」と冷たいマンデリンの組み合わせは、味覚の懐かしい部分(スモーキーなマンデリンは私が最初に好きになった珈琲だから)と新鮮な部分を同時に刺激してくれて、幸福指数は一気に上昇。

自宅にもぜひ幸福のかけらを持って帰りたいと思い、小さなテーブルに並んだSunday Bake Shopの魅惑のお菓子の数々を物色しておりましたら、嶋崎さんがふと私の持っていた白い紙袋に目をとめて、「あのお店が大好きだったんです」とおっしゃるではありませんか。

それは白地に小さくdayle'sford organicとロゴの入った紙袋。聞けば、彼女はイギリスのお菓子に惹かれてイギリスに滞在。その間、デイルズフォード・オーガニックが大好きだったのだそう。

「フランスのお菓子を魅力的だと言う人は多いけれど、私はフランスに行っても、“やっぱりイギリスのお菓子のほうがおいしい”と思って、すぐにイギリスに戻っちゃいました(笑)」

その気持ち、少しわかります。90年代にロンドンの有名ホテルのアフタヌーンティーめぐりをしたときは、いまひとつぴんとこなかったのですが、2000年代に湖水地方の旅をしてみたら、小さな町々で食べたお菓子も、戻ってきてロンドンで食べたお菓子も、不思議に明るくて(味覚を明るさで表現するならば)充実したおいしさがありました。

どれも魅力的で、つい何種類も買い求めてしまったSunday Bake Shopのお菓子たち。甘みのきかせどころ、スパイスのきかせどころをちゃんと知っている人が作ったんだな、ということがよくわかる味わい。果実の扱いもとても魅力的で、イギリスで感じたあの「明るさ」を思い出したのです。

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2010年09月04日(土曜日)

『東京カフェの本』(エイ出版社)

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100904kawag.jpgエイ出版社から『東京カフェの本~東京の旬なカフェをガイドする本』(950円+税)という、ものすごくダイレクトなタイトルのムックが発売になりました。ご協力させていただいた本なのでご紹介しますね。

イントロダクションは『カフェ好きの著名人に聞きました! わたしのカフェの選び方』。デザイナーの酒井景都さん、モデルの甘糟記子さんをはじめとして、料理家、エッセイストなどの方々がお気に入りのカフェを紹介。

「今、東京で人気のカフェをちょっと詳しく知りたいあなたへ」というキャッチコピーをつけた第一特集は『一度は行きたい東京名物カフェ』。取り上げられているお店は、カフェハウス、BEAR POND、cafe イカニカ、ねじまき雲、シートマニア、uguisu‥‥など。それらに混じって、名曲喫茶ライオンをフューチャーしているのがユニーク。
ベアポンドの豪快なアイスラテ「ラテジャー」の作り方を紹介したり、ねじまき雲のネルドリップを写真つきで解説したりと、一歩踏み込んだ内容になっています。

読みものページは『川口葉子さんに聞く・私がカフェを好きなワケ』。

第二特集は「和が好き、本好き、お酒好き…。わがままに応えるカフェが増えてます!」というわけで『好みに合わせて選ぶカフェ』。
古民家カフェ/ブックカフェ/カフェダイニング/世界各国体験の4つにカテゴライズして6、7軒ずつお店を紹介しています。

私自身は厳密に言葉を使い分けていて、「古民家」という表現は大正時代以前に建てられたものにしか使わないし、「アンティーク」や「骨董」という言葉は100年以上前のものに対してだけ使うのですが(100年未満の場合は「ヴィンテージ」「古道具」)、まあそう堅苦しく気にせずに…という方針なのでしょう、築30年くらいの建物も古民家として扱われています。

100904kawag2.jpg厳しく「大正以前の建物」だけを選ぼうとすると、昭和時代に大空襲で焼け野原になってしまった東京においては、古民家カフェと呼べるものは本当に数少ないのです。

そして「店の個性とこたわりが詰まったものばかり!カフェスイーツ編」特集では、表参道の「パンとエスプレッソと」の黒いグリル皿にのったフレンチトーストがあんまりおいしそうなので、すぐに食べに行きたくなってしまったのでした。

書店でみかけたら、どうぞページをめくってみてくださいね。情報のぎゅっとつまった一冊です。

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2010年08月28日(土曜日)

Fructus(フラクタス)の新鮮オーガニック・スムージー

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100828kawag.jpg千駄ヶ谷に用事があり、GOOD MORNING CAFEで遅いランチをとろうと日傘をさして歩いていたら、すぐ手前に小さなカフェを発見。なんでも小さなものに目がとまる習性ゆえ、入ってみました。

そこはFructus(フラクタス)という新鮮なフルーツと野菜たっぷりのオーガニック・ジュースのお店。黒板には「食事代わりに」というコメントが踊り、ブルーベリースムージー、梅スカッシュ、などのメニューが並んでいます。

ちょうどその日、私は南房総の海での3日間のベジタブル&フルーツ・デトックス合宿(?)から帰ってきたばかり。じっくりと黒板を眺め、ブルーベリースムージーに使われる素材をチェックしました。(きちんと書いてあるのがありがたいですよね)

●ブルーベリー
●バナナ
●レモン果汁
●豆乳
●アガベシロップ

最初の3つは理想的。アガベシロップも、甘みづけに使う材料としては最良の選択です。(うちでも愛用中)

気になるのは豆乳。99%のベジタリアンには歓迎される素材ですが、大豆イソフラボン摂取を控えめにしたい私にとっては、なるべく避けたいもののひとつです。

「ブルーベリースムージーの豆乳抜き、できますか?」
「それだと、ジューサーが回らないですね」

カウンターの中に立っていた男性が、にこやかに答えてくれました。そりゃそうです。結局「豆乳少なめ、アガベシロップ抜き」でお願いして小さなスムージーを作ってもらいました。

これがおいしくて、バナナの自然な甘みがほんのり。わずかにねっとりした感触は、豆乳が少ないためにバナナ比が増え、全体が濃厚になっているせいですね。それもまた好みです。
大きなサイズを注文すれば、1本で充分に栄養補給とデトックスのできるランチになりそう。

聞けば、土曜日には神奈川で無農薬栽培された野菜の販売もあるのだそうです。朝いちばんに収穫したものを届けてもらうのだそう。

この夏、朝どりのトウモロコシをOisixで取り寄せてナマでかじり、予想外の甘くフレッシュなおいしさに感動したので、「その朝とれたばかり」の威力はよくわかります。

いいですよね、こんなコンセプトのお店。どの駅のそばにも1軒は欲しいくらい。
だって、本当に自分が望む素材だけをたっぷり使って作られたお料理って、外出先ではなかなか食べられないのですから。ジュースやスムージーならば、お料理より気軽に提供してもらえそうです。

(で、そのあとGOOR MORNING CAFEで野菜ランチをいただきました‥‥こういうことをやめられれば、ダイエットできるのですが)

 Fructus(フラクタス)
 東京都渋谷区千駄ヶ谷1-20-3
 【Tel】03-6447-0080
 【Open】9:00~17:00、日9:00~17:00、月休

※天然酵母のパンやフルーツサンドもありました。

※毎週火曜日には、NYでビーガン料理を学んでいた人が作るマフィンが登場するそう。動物性食品不使用。


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2010年08月21日(土曜日)

叱ってくれる人

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100821kawag.jpg長い歴史を歩んできた珈琲店には、いつのまにか伝説ができあがっているものです。はたして事実なのかどうか、伝説の多くは、そのお店の周辺にいた人々が勝手に作りあげてしまったものなのかもしれないけれど。

「むかし、*珈琲店のカウンターはすごかったんだよ。お店もすごいけど、客もすごい人が多くてね」

これは古くからの珈琲ファンが時おり語る伝説です。

「珈琲の飲みかたを知らない奴は、お店の人からビシビシ注意されたし、マナーをわきまえない奴がいると、客が客を叱ったからね。だから僕なんか最初の頃は、おそれ多くてカウンターには座れなかったね」

そんな厳しいカウンター席には、私も怖くて座れそうもありません。でもきっとテーブル席で黙って珈琲を飲みながら、カウンターのやりとりに耳を澄ませて、たくさんの貴重なもの、他では決して知ることのできないものを学んだことでしょう。

近年では、お客さまは神さまになってしまったので、礼儀をわきまえない人を誰かが叱るという光景にはめったに出会わなくなりました。

家族でも友人でもない、その場に居合わせただけの他人に対して、相手の非をさとし、なにかをきちんと伝えるには、とてつもないエネルギーと真剣さが必要です。

ちゃんと叱ってもらえた人は幸せなのです。相手が本気で何かを伝えようとして時間を費やし、大変な努力を払ってくれたことに対して、そして大切なことを気づかせてくれたことに対して、あとから感謝の気持ちが湧いてくるかもしれません。

もし時が戻るのなら、往年の*珈琲店のカウンターに座って、一度はがっちり叱られてみたい。

そんなことを思うせいでしょうか、最近、それは少し違うのではないかしらと感じた誰かの言葉に対して、「私には違和感があります」と率直に言うことが増えてきました。

もしかしたらいずれ「意地悪ばあさん」と呼ばれる日が来るのかもしれません(笑)

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2010年08月14日(土曜日)

1945-1998 by Isao Hashimoto

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100814kawag.jpg   (写真上)露天風呂から眺める夏空。
   (写真下)岡倉天心が茨城・五浦海岸に建てた六角堂


2泊3日で北茨城へ温泉旅行をしました。そのおかげで、NHKが深夜に放送していた戦争の証言番組に熱中するはめに。

子どものころ、年長者が語る戦争体験を聞くのは苦痛でした。理不尽でつらい体験を聞くのが、怖い‥‥というよりは、正直なところ退屈で。

小学生の想像力は、楽しい方面にはどんどん広がるのに、大きな社会的悲惨さの方面には広がらないものなのかしら。
骨折の痛さとか、幽霊なんてものを、いきいきと想像しすぎて怖くなるのは得意だったのだけれど。

けれどもこの1週間ほどは、夜ごと放送される「戦争証言プロジェクト」を、本当に食い入るように見てしまいました。
番組の送り手のほうも、力がこもっていたように思います。

きっかけといえば、旅行中は昼間のんびり露天風呂につかって、ふだんの生活ではありえないほど早い時間帯にご馳走を食べて大酒を飲むものですから、夜9時にはもう旅館の布団で熟睡。

その結果、深夜1時ごろにすっきりと目覚めてしまうのです。そして何気なくつけたテレビの画面にひきこまれていきました。
終戦から65年。「戦争を知らない子ども」も、いまや65歳になったのですね。

そんな1週間の象徴ともいうべき映像作品。
1945-1998 by Isao Hashimoto

私はこの作品を坂本龍一のtwitterで知りました。制作者の橋本公氏は、現在、箱根ラリック美術館のキュレーターをなさっているとか。

(この作品じたいに説明は必要ないと思いますが、橋本公さんのコメントを紹介しているブログをみつけました)

ただ、慄然とします。坂本龍一がつぶやいたように、私たちは全員が否応なく死の灰を吸いながら生きているのです。まだご覧になっていないかたは最後までじっくりとどうぞ。15分ほどの作品です。

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2010年08月07日(土曜日)

カフエマメヒコの名作カレーパイ!

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100807kawag.jpgカフエマメヒコのオーナー、井川さんに昨年お話をうかがったとき、北海道に土地を借りて自分たちで豆をつくるという素晴らしくて無謀な計画をちらりと話してくださったのですが、なんと本当に実現してしまわれました。

東京のマメヒコから、農業などしたこともない美女スタッフ2名が北海道へ。小屋に住み込んで豆づくりに汗水たらしているそうです。いやはや、よくそんな勇気ある行動が!
チャレンジしているのは無農薬栽培。ブログによれば、周囲からは「勇気栽培」と言われているもよう。

先日、渋谷のカフエマメヒコでマメレット(お豆のガレット)を楽しんだ帰りに、ガラスケースの中のパイ2種をテイクアウトしました。

その日並んでいたのは、自分たちで丁寧にあんを炊いて作る小豆パイと、「マメヒコでは珍しいんですよ」というカレーパイ。
きちんと甘みを感じさせながらもしつこくない小豆パイはもちろん美味でしたが、カレーパイにはさらなる感動がありました。

ひとくち食べて、思わず断面をしげしげと眺めてしまう絶妙の味わい。はっとするような新鮮さと懐かしさ、嬉しさがぎゅっと詰まった名作です。
こっくりと濃厚なカレーの中に、きれいな形の豆がひと粒、顔をのぞかせていました。そのカレーとパイ生地の相性の良さ! 間違いなく私の「自己ベスト」カレーパイです。

お店を出るときにスタッフが、マメヒコのお料理とデザートを考案している滝口博子さんを紹介してくださいました。

60代の滝口さんの肩書きは「主婦」。大切な家族のために作る家庭料理の秀逸さが評判となり、周囲の人々に請われるかたちでお料理教室を開くようになって十年以上。

マメヒコのオーナー井川さんは、かつてはどこにでもあったはずの手をかけた家庭料理の良さをマメヒコのお手本にしたいと願って、メニューの考案を滝口さんに依頼したようです。

マメヒコの店頭に置いてある冊子「ヒトヒコ」の滝口博子さんの回(2008年vol.5)は、マメヒコの楽しい企画の舞台裏をのぞきたい人にとって格好の読みものであると同時に、カフェを始めたいと思っている人にとっても最高の参考書。
※冊子にはWebに掲載された内容の長い続編(ここからが本番)が綴られており、数倍ものボリュームになっています。
 
2週間のあいだカフェで朝食を出すという企画「アサヒコ」が、どのようにしてわくわくと膨らみ、その後、二転三転…どころか何回転もして、試行錯誤が繰り返されたか。実現にあたって、具体的にどんな種類のハードルが現れるのか。最終的に何を大切にしたか。お客さまに何を届けたかったのか。

失われた「旧き善き日本の朝食」をカフェのテーブルに出現させる道のりを読むと、こんなこと、ちょっとやそっとの決意やエネルギーではとうてい真似ができないということがよくわかるのです。

この夏、渋谷には3軒目のマメヒコが誕生するそう。スタッフの方々には、やや不思議な新しい挑戦(だって、トンカツと珈琲と食パンをテーマにしたお店なんだそうですよ)に取りくむときの、きらきらするような活気が感じられました。

男子がアイスコーヒーをテイクアウトするためにお店に入ってくる光景も見かけて、マメヒコの姿勢が、全員ではないのかもしれませんが、お客さまにしっかりと伝わっているのだな、と頼もしく思いました。

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2010年07月30日(金曜日)

カフェ・ド・ロペの復活:葉山Cafe de Rope La Mer

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100730kawag1.jpg新刊『東京カフェを旅する~街と時間をめぐる57の散歩』(文と写真=川口葉子/平凡社/1500円+税)が発売になりました。書店でみかけたらぜひお手にとってくださいね。
本の内容はこちらでご紹介しています。

本書では東京の魅力的なカフェ57軒をご紹介するとともに、1960年代から2010年にいたるカフェの歴史を綴り、1972年に表参道に誕生したオープンカフェの先駆的存在「Cafe de Rope」(カフェ・ド・ロペ)についても取り上げました。

その伝説のカフェが昨年に引きつづき、今年の夏も葉山にビーチハウスとして復活しています。

Cafe de Rope La Mer(カフェドロペ・ラ・メール)
【address】神奈川県三浦郡葉山町 一色海岸
【open】11:00~21:00 、土日祝11:00 ~22:30

※本でも触れたことですが、かつてCafe de Ropeがあった場所には、現在、山本宇一さんが手がけたカフェラウンジmontoak(モントーク)が建っています。どちらも経営はアパレルブランドJUN。

先週、あまり陽射しの強くない日を選んで(‥‥のはずが、葉山についたらみごとな晴天)、一色海岸界隈でのんびりと一日を過ごしました。

100730kawag2.jpg昔ながらの海の家が並ぶ一色海岸において、先端のとがった優雅な白いテントを持つCafe de Rope La Merは少しだけ異色な存在。デッキチェアは美男美女で満席! 夕方が近づくにつれ、海からあがってDJブースの前で踊る人々が増えていきました。

都心の人気カフェが海辺に夏だけの期間限定で海の家を出店する例としては、私の知る限りでは2004年に江ノ島海岸にオープンしたBEACH HOUSE eau cafe(ビーチハウス・オゥカフェ)が先駆け。

eau cafeが白い砂浜の上にゆったりしたソファまである本格的な【部屋カフェ】をつくりあげたのに対して、Cafe de Ropeは完全に海の家。
お料理についても、eau cafeではカフェのシェフがパスタやメインディッシュに腕をふるっていましたが、Cafe de Ropeは他店とのコラボレーションのようです。でも、そんなことはこの際どうでもよくて。

サングラスをかけていてもまぶしい青空。きらめく光の粒に満たされた海。潮風。それから、焼けた鉄板の上を歩いているような熱い砂の感触。子どもたちの笑い声。泳ぎすぎてすっかりだるくなってしまった体を横たえて眠るカップル。

なんだか遠くて懐かしい、7月の海の過ごしかた。

私たちといえば、そういう最前線はもう若い人々におまかせして(ちょっとした引退気分を感じました(笑)、ひたすら日陰で冷たいウォッカトニックを飲みながら、水平線の輝きに目を細めて至福の時間を過ごしました。

伊豆大島の海を「自分ちの海」だと思っている夫と私にとって、葉山あたりは「よそのお宅の海」に感じられるのが面白いのです。でも、太陽が傾いてきて、頬に受ける風の温度が急に涼しくなるのに気づいた瞬間の強烈な快感などは、どの海でも変わりません。

ひとりで身軽な格好で現れ、海を眺めつつ淡々とブラッディマリーを楽しんでいく地元民らしいおじさんもいました。もちろん足もとは葉山の公式サンダル=げんべいのビーサン。
海辺では、リラックス上手な人ほど素敵に見えるものですね。

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2010年07月17日(土曜日)

デルベア・頑固もののバウムクーヘン

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100717kawag.jpg女性の珈琲焙煎家の先駆けであるグラウベルの狩野さんから「デルベアの会」と題した集まりのお誘いをいただいて、お宅におじゃましました。

会の趣旨は、奈良で熊倉真次さんがこつこつと一人で作り続けるデルベアのバウムクーヘンに合うコーヒーをテイスティングすること。

当日集まったのはカフェのオーナーなど、コーヒーの仕事にたずさわる人々8名。予約してから1~2ヶ月待ち、という貴重なデルベアのバウムクーヘンを食べながら、狩野さんが焙煎した6種類のコーヒーをすすり、どの銘柄が最もバウムクーヘンの魅力をひきたてるかに思いをめぐらせました。

おもしろいことに、人によって選んだ銘柄がかなり違うのです。私はワインで覚えた「ワインの要素とお料理の要素に、共通点を持たせる」という基本法則を採用していますから、まずは

☆フルーツの酸味が魅力のお菓子=フルーツの酸味を持つコーヒー
☆ナッツをちりばめたお菓子=ナッツの香りがあるコーヒ-
☆バターが魅力のお菓子=しっかりした苦みとコクのあるコーヒー

という大原則をあてはめてみました。
そうすると、直球の正解はバウムクーヘンのバターに合わせた、深煎り・苦味系の濃く抽出したコーヒー。

ところが、デルベアのバウムクーヘンはカルピス発酵バターを贅沢に使っているので、バターの力強さのなかに、ほんのりと発酵特有のおいしい酸味が混じっているのです。
バニラも、すぐに鼻にぷんとおしよせる人工香料ではなくて、ほのかなアニスの香りをまとった本物のバニラの柔らかな香り。

この繊細な美しさを大切にしたいなと思ったら、あまりストロングなコーヒーよりも、いやみのない酸を持つ、バランスのとれた銘柄のほうがふさわしいと思えてきました。かといって、あっさり、すっきり系のコーヒーではバターの重厚感に負けてしまって物足りないのです。

そして、他の参加者の方々のコメントを聞いていて気がついたのですが、このバウムクーヘンの魅力をどうとらえるかによって、強調したい要素がまるで違ってくるので、合わせたいコーヒーにもばらつきが生まれるのですね。興味深い発見でした。

狩野さんはオカズデザインさんが取りもつご縁でデルベアと出会われたそうで、この日はオカズデザインさんがいらして、熊倉さんがバウムクーヘンをどのように作っているかを話してくださいました。

自然素材を選び抜いて、それはもう、たった一人であきれるばかりの頑固で真っ正直な手づくり。
膨張剤などの添加物を加えて膨らませることはせず、あの何十にも重ねられる層をじっくりと一層ずつ焼き上げていくそうで、どんなにがんばっても1日に2本しか完成しないとのこと。

勇気。それなくして、こんなものづくりはできないですよね。妥協しない頑固さから生まれたシンプルなおいしさは、食べた人にも小さな勇気を与えてくれます。

そして私は「バウムクーヘンをコーヒーにひたして食べる」という新しいおいしさに夢中! デルベアのバウムクーヘンだからこそ可能な楽しみ方だと思います。

ちなみにオカズデザインさんは、今秋から始まるNHKの連続テレビ小説(あらためて考えると趣深いネーミング)で<おばあちゃんのごはん>づくりを担当されるそう。思わず「エキストラで出演してそのごはんを食べたい」と漏らして、すかさず「テレビに出るのは嫌いだったんじゃ?!」とつっこまれました(笑)

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