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2009年12月25日(金曜日)

Volo Cosi(ヴォーロ・コズィ)の聖夜

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091225kawag1.jpg小石川植物園のほど近く、都営三田線「千石」駅から歩いて5分ほどのおよそ気の利いたレストランなどありそうもない通りに、今年の私のベスト・イタリアンが店を構えています。1年の締めくくりに、夫と二人で夕食を楽しんでまいりました。

シェフの西口大輔氏の経歴は…と書くのももどかしいのでこちらのサイトなどをご覧いただくとして、一皿一皿が本当に素晴らしく、記憶に残るコースとなりました。

イタリア料理ならではの力強い味わい、とくればインパクトがありつつおおらかな風味を想像しますけれども、西口シェフのお料理は、力強く厚みのある旨味のなかから、細心の注意を払って作られた繊細な味と香りが美しく顔をのぞかせ、二度感動するのです。

このコースはまだ皿数があり、写真をすべて載せることができませんでした。他に、チーズが香るグリッシーニや、フォアグラに洋梨の赤ワイン煮をあしらい、薄いトーストの上にのせていただく一皿が運ばれました。ほんのひときれなのに、マイ・ベスト・フォアグラ。

左の写真の1番上は「手でつまんでお召し上がりください」の声とともにサーブされた小さな前菜。ナスのソテーや極小ピッツァ、上品なサラミなどの盛り合わせ。スプーンの上はお米のサラダです。

2番目は西口シェフのスペシャリテ、「ヴェネツィア風魚介の前菜の盛り合わせ」。ふっくら焼いた牡蠣のベーコン巻き、ポテトサラダの上にキャビアをのせたものや、イカの野菜詰め、タコの足をゼリー寄せにしてサラミ仕立てで楽しませてくれる一切れ、ウナギのマリネを細く渦巻き状にしてポレンタにトッピングしたものなど、多彩な驚きの弾ける一皿です。
中央のぷりっとした海老はもちろんのこと、鯖を小さなタルト状に焼いたラビオリにのせた一口が最高でした。鯖から独特のくさみを抜いて濃厚な旨みだけを残し、皮目を香ばしく炙ってあります。

091225kawag2.jpg3番目は「青森産ホタテとイタリア産カルチョフィのグラタン」。これがまた! ジューシーなホタテの下に、複雑で飽きさせないたっぷりの旨味素材が隠れていました。

次はパスタ系が2皿。「自家製スパゲティー ヤリイカ、パンチェッタと赤チコリのラグーソース」、その下は「エゾ鹿のラザニア アルバ産白トリュフ添え」。
前菜が始まる前に、スタッフが白トリュフをまるごとラベル付きで器にのせて持ってきて、「これを使います」と匂いを嗅がせてくれました。高価なアルバ産は偽物がたくさん出回っているので、本物ですよ、というラベル確認の意味もあったのでしょうね。このラザニア、濃厚で官能的な味わいでした。

ああ、書ききれなくなってきました。写真右は上から、真鯛のオーブン焼き、小鳩と鴨のロースト、温かい林檎のパイにマスカルポーネのジェラートをのせたドルチェ、最後がエスプレッソのための小菓子でした。

なにが素晴らしいって、どの一皿にも、味わいの中心にくっきりとしたぶれのない信念のようものが発見できること。お店を出るときにお見送りしてくださった西口シェフからは、謙虚なお人柄がうかがえました。

ちょっと面白かったのは、お店の内装が完全にクラシカルなフレンチレストランのそれであること。ヴォーロ・コズィがオープンする前はフレンチレストランとして使われていたのですって。

Volo Cosi(ヴォーロ・コズィ
東京都文京区白山4-37-22 
TEL 03-5319-3351
【Lunch】12:00~13:30 LO
【Dinner】18:00~21:30 LO 
MAP Yahoo!地図情報

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2009年12月18日(金曜日)

自分を磨く前に、部屋を磨く

東京カフェマニア主宰 川口葉子

クラシックの演奏家がインタビュー番組に出演した際に「留守のあいだ、部屋にCDでグレゴリオ聖歌かなにかを流しておく」と話した言葉が、もうずいぶん長いこと私の記憶にひっかかっていました。
「音が部屋の空気を洗い清めてくれるから」と、演奏家は語っていました。

そのせいなのでしょう、Web上で偶然に「場の空気を浄化する音」が入っているというCDをみつけ、面白がって注文してしまったのは。

届いたCDに録音されていたのは、音叉を打ち鳴らす不思議な音の数々でした。もともと耳を傾けて聴くつもりはなく、BGMがわりに何気なく流していたのですが、その翌日、どういうわけか大掃除がしたくてたまらなくなってきたのです!

そうして2週間以上にわたり、10年に1度というレベルの大・大掃除が始まってしまったのでした。

毎日、とりつかれたように押し入れの中のものを全部出して、消臭抗菌剤「ミラクリーン」を盛大にスプレーし、押し入れの中に空気清浄ファンを入れて風をあてたり。
家に7つある書棚の本を全て床に積み上げ(恐ろしい惨状を呈しました)、千冊以上の本を処分したり、ベランダに熱湯をたっぷりまいて、デッキブラシで磨きあげたり。

私は旅や取材に出かけたり本を書いたりするので、たまにエネルギッシュな人と誤解されることがあるのですが、それらはあくまでも特殊な非日常。日常はいつもだるくて、すぐに疲れて横になってしまうたち。基本的に、ベッドに本とコーヒーを持ちこんで日々を過ごしている怠けものなのです。

091218kawag.jpgですから、この長期的徹底掃除のそれはそれはつらくて楽しいこと! 毎日、家具を大移動するおかげであちこち筋肉痛になるし、2週間以上、家中が倉庫のような状態で、精神的にも体力的にもへとへと。

しかし、なぜか「このままでは新しい生活が始められない!」という衝動に動かされて、掃除を続けないわけにはいかなかったのです。もはや魂のレベルで浄化とすっきりした環境を欲していたのかもしれません。

努力したぶんだけ、住まいがきれいになっていくのは爽快なこと。薄くほこりをかぶって存在を沈み込ませていたモノたちが、本当に輝きを放っているのです。

本棚の奥からは、かつて掃除意欲をかきたてるために買った本が何冊も発掘されました。ここに挙げた2冊はもうずいぶん昔のもので、いまやこの分野の古典となっていますが、再読するとやはり掃除心が刺激されますね。

『ナチュラルクリーニング』には化学物質を使わず、重曹とお酢を使いこなしてハウスキーピングをおこなうレシピが満載。

カレン・キングストンの『ガラクタ捨てれば自分が見える―風水整理術入門 』は、日々たまっていくガラクタをエネルギーの停滞と位置づけ、部屋をすっきりと整理することで、いらないものがいっぱいで身動きのとれなくなった人生に、気持ちのよい新しいエネルギーを呼び込もうというもの。

どちらも、もはやすっかりおなじみのレシピ&考え方ですが、ページをめくるそばから、適当にモノを押し込んでしまった戸棚の奥が気になりはじめるという影響力を持っています。大掃除をしなくちゃいけないんだけど、面倒でやる気になれない…という人には、この手の本の一読をご提案します。

そして後日、友人に教えられて知ったこと。私が空気清浄音楽のつもりで購入したCDは、一部の人々のあいだで、掃除がしたくなるCDとして知られていたのです!
最初からそのつもりで購入した人の中には「掃除したくならない」と不満げな反応もあるようですが、少なくとも私には恐るべき一撃をもたらしてくれました。

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2009年12月12日(土曜日)

『味覚極楽(みかくごくらく)』子母沢寛

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091212kawag.jpgむかしの日本の味を熟知している人々の話を味わいたくなるとき、よく手に取る本があります。『味覚極楽』(中公文庫)。

これは1927年(昭和2年)、新聞記者だった子母沢寛が当時、美食家として知られる人々のもとを訪れ、おいしいものにまつわる話を聞き書きしたものです。

明治・大正時代の美味を知る各界の食いしん坊たち。インタビューを受けているのは、資生堂の主人だったり、小笠原子爵だったり、大倉男爵夫人、宮内省厨司長、増上寺大僧正、もと鉄道大臣、陸軍中尉など、各人のいかめしい肩書きにも時代の色が感じられます。

しかし当時もやはり、おいしいものに貴賤はなかったようで、祖父が袁世凱のおかかえコック(!)だったという名料理人を自宅にかかえる男爵夫人の華麗な食生活から、浅草の夜の屋台の安くておいしいことまで、食いしん坊たちはいつの世もマニアックに自分好みの味を追究しているのです。

コーヒー好きとして親近感をおぼえたのは、『日本一塩煎餅』と題した鉄道省事務官・石川氏のお話。

塩せんべいの食いまわりをはじめてから、もうかれこれ三十年にもなった。
九州から北海道とせんべい一枚を食うためにずいぶん苦労もしてみたが…(後略)

蒸気機関車の時代に、おせんべい一枚のために苦労して旅をする、ばかばかしくも楽しい食い道楽。そしてこの石川氏は、正しいおせんべいは「江戸を中心に関東のもの」、とくに埼玉県草加の町が日本一、との結論に達しています。関西のお醤油はおせんべい向きではないのですね。

京大阪から関西へかけては、見てくれの綺麗なものもあるけれども、要するに子供だまし、第一あの薄黄色いようなあの辺で使う醤油の匂いが承知しない。
前歯でガリリッとかんで、舌の上に運ぶまでに、めためたになってしまうようでは駄目なのである。
舌の上でぴりっと醤油の味がして、焼いたこうばしさがそれに加わって、しばらくしているうちに、その醤油がだんだんにあまくなる。
そして噛んでいる間にすべてがとけて、舌の上にはただ甘みだけが残るようでなくてはいけない。
この力説ぶり! しかも当時は伝統的製造法でつくられた本物のお醤油が使われていたでしょうから、さぞ力強く香ばしい風味が際だっていたのでしょう。
(上の文章の「醤油」を「苦味」に置き換えると、そのままコーヒーの理想としても成立しそうですね)

同じ章に、幕末時代のカステラのぎょっとするような食べ方についても言及があります。当時の長崎のカステラ広告に、カステラを薄く切り、わさび醤油で食べると酒の肴として至極上等だと書いてあるというのです。

現在私たちが知っているカステラとは少し違うらしいと断りつつも、著者の子母沢寛はこれを試さずにはいられませんでした。
知り合いの料理屋のおかみさんに頼んで、小さなひときれを出してもらったところ「ちょっといけるものである。…その後おかみの話に、ああでもないこうでもないと何にか珍しいものばかり食べたがっているお客さんへこれを出すと、ほめられますといっていた」

そう聞くと、自分でも試してみたくなりませんか?! 救いがたいほどの好奇心の強さは、食いしん坊たちに備わった特性のひとつだと思うのです。

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2009年12月04日(金曜日)

スイーツ×コーヒーの基本方程式

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091204kawag2.jpgクリスマス、バレンタインと甘いイベントが続く冬は、スイーツの本番とも言える季節。ケーキ・シーズンであるクリスマスを前に、タリーズから楽しいスイーツとコーヒーのペアリング情報が届きました。

いっしょに舌の上にのせるコーヒーの風味によって、スイーツの味わいはさまざまに変化するもの。ワインとお料理の相性がぴったりだったとき、一皿のおいしさは2倍以上に膨らむものですが、コーヒーとスイーツにも幸福なマリアージュがありますね。

タリーズによれば、基本のセオリーは「『ケーキのイメージ』と『コーヒーのイメージ』が近いものを選ぶ」のだそうです。フルーツの香りがするコーヒーにはフルーツを使ったスイーツを、コクのあるコーヒーには濃厚なスイーツを。

091204kawag1.jpg(A) 明るい酸味が魅力の、すっきりと飲みやすい中南米のコーヒー(コロンビア、グァテマラ、コスタリカなど)には、甘みがやさしく軽い口当たりのスイーツを合わせます。たとえば、ロールケーキ、シフォンケーキ、スフレチーズケーキなど。

(B) 深いボディを持つ、まったりした重量感のあるインドネシア系のコーヒー(スマトラ、ジャワなど)には、クリームやチョコレートをたっぷり使った濃厚な味わいのスイーツを合わせます。たとえば、ガトーショコラ、キャラメルクリームケーキ、ベイクドチーズケーキなど。

(C) 華やかな香りとフルーティーな酸味を持つアフリカ系のコーヒー(ケニア、タンザニアなど)には、フルーツを使ったさわやかな酸味のスイーツを合わせます。たとえば、アップルパイ、イチゴのケーキ、フルーツタルトなど。

そして、どんなケーキにもぴったりなのが、写真の「ホリデーロースト」。ビターチョコレートのようなコクと、後味のほどよい苦味がポイントだそうです。

※ペアリングに興味のあるかたは、タリーズがお店で主催する気軽なコーヒースクールの「コース2」へどうぞ。

私たちのコーヒーとのつきあい方は、年を追うごとに深く豊かになっていきますね。子どもの頃に初めて飲んだコーヒーは、インスタントの粉をお湯で溶いて、クリープと砂糖を入れたものでした。あのときは、コーヒー豆それぞれの個性とスイーツとの相性に考えをめぐらせて堪能する時代が来ようとは、きっと想像もしなかったはず。

小学生のとき、家に遊びに来た叔父夫婦に「コーヒーをいれてあげる」と言って、適量も知らずに通常の3倍以上のインスタントコーヒーの粉を溶いて二人の前にさしだし、ひとくち飲んだ叔父があまりの濃さに吹きだしそうになった場面を、ふと懐かしく思い出しました。

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2009年11月27日(金曜日)

隣の町のマルシェ・ジャポン

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091127kawag1.jpg野菜を作った人から直接買える。そんな嬉しい市場が、あちこちに少しずつ広がりはじめているようです。

主催は「マルシェ・ジャポン」。各都市で、農家の人々と消費者が、お互いの顔を見て言葉を交わしながら、手から手へ生産物を渡すことができる市場を定期的に開いています。

都心の広場に、収穫したばかりのみずみずしい野菜が並ぶ光景は心なごむもの。表参道なら国連大学前の広場、六本木一丁目ならアークヒルズ…と、立ち寄りやすい場所で開かれるのも魅力です。

※先週のアークヒルズのマルシェには、ほんものの乳牛が登場! 青梅の牧場からやってきた牛が、人々に乳しぼりを体験させてくれたそうです。

川崎チネチッタで映画を観るついでに、ラ・チッタ・デッラのマルシェに立ち寄りました。屋台はそう多くはないのですが、日本では少量しか栽培されていない、ちょっと珍しい野菜たちも並んでいます。

嬉しいのは、ちょっと味見させてもらえたり、その場でお料理の方法を教えてもらえたりすること。スーパーやコンビニエンスストアのお買いものにはない楽しさですね。

川崎・高津区の小宮農園さんの聖護院大根を眺めておりましたら、売り手の女性が「とりたては葉っぱや茎も食べられるんですよ、ほら、こんなに柔らかいでしょう。今朝とったからね」と、葉をさわらせてくれました。葉っぱは軽く油で炒めて、塩をふって食べるとおいしいのだそうです。

091127kawag2.jpg楽しい気持ちでこの聖護院大根や無農薬の玉ネギ、長野の有機大豆を使った古式醸造味噌などを購入したのはいいのですが、川崎に来たら必ずラゾーナで丸善書店に立ち寄り、ブレッツカフェ・クレープリーでガレットかクレープを食べながら買った本を読むのが私の定番散歩コース。全長1mの聖護院大根をかかえて書店の売り場を回遊するのは……じゃまでした。

次は、マルシェだけを目当てに行こうと思います。自分の近隣地域のマルシェ・ジャポンのメールマガジンに登録しておくと、開催日に「今日は雨なので1時間遅れて開催します」などというメールが届いて便利です。

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2009年11月20日(金曜日)

台湾から「ダライ・ラテ」

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091120kawag.jpg写真のカフェラテは、『京都カフェ散歩~喫茶都市をめぐる』でご紹介した京都・小川珈琲のバリスタ岡田章宏さんのデザインカプチーノ。

岡田さんはジャパン バリスタ チャンピオンシップ2008-2009の優勝者。このデザインは葛飾北斎の「富嶽三十六景」から着想を得たのだそうです。
ご実家が呉服商で、幼い頃から日本伝統の図案に親しんでいたという背景に、京都らしさを感じました。

台湾でも同様のバリスタチャンピオンシップがおこなわれているかどうかは不明ですが、デザインの面白さでは台湾のカフェも負けていません。
今年の初秋には、ダライ・ラマ14世の台湾訪問を記念して、台湾・高雄のホテルが新デザインのカフェラテを発売したそうです。

その名も「ダライ・ラテ」!

ご興味を持たれた方は、You Tubeで「達賴咖啡!創意咖啡拉花」と入力して検索してみてくださいね。台湾のTV番組が、ダライ・ラテが作られているシーンを報じています。

女性スタッフがミルクの泡でダライ・ラマの輪郭のかたどり、その上に筆で目鼻を描いていくのですが、完成品はダライ・ラマというよりは、人のよさそうな可愛いおじいちゃん。10年ほど前に他界した私の祖父にも似ているようです。

祖父の名は清(きよし)でした。ダライ・ラテはキヨシ・ラテ。もしかしたら台湾の多くの人々が「あら、うちのおじいちゃん…」と思いながら飲んだかもしれませんね。

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2009年11月13日(金曜日)

江戸からかみの世界

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091113kawag1.jpg(写真:江戸時代に使われた版木)

偶然にショールームの前を通りかかった「東京松屋」。江戸からかみ工芸の専門店です。

1階入り口のガラスケースにずらりと並ぶ葉書には、和紙の上に、萩の花、へちま、松の葉、梅、ひょうたんなど、四季を写した美しい草木の図案が踊っていました。

あれこれ迷った末に20枚ばかり買いもとめ、お店のかたの「よかったら2階から4階までのショールームものぞいていってくださいね」という言葉に従って、江戸からかみの世界を満喫しました。

江戸からかみとは、ふすまや屏風に貼る装飾和紙。京都旅行の折に、よく「唐長」のお店をのぞいてポストカードを購入するのですが、そちらは京からかみ。

京都と江戸のからかみ、どう違うのかといえば、京都は木版刷りが中心、江戸ではそれに加えて型紙による捺染や刷毛引きなど多彩な技法を加えたもの。

徳川幕府のもとで江戸の町が大きく発展し、ふすまや障子の需要はどんどん増えていったのですって。大江戸八百八町の家々のふすまや壁を、江戸からかみが彩っていたのですね。

専門の職人たちも大勢活躍していたそうです。木版刷りの技を持つ「唐紙師」、金箔・銀箔・砂子を駆使して華麗に装飾する「砂子師」、渋型紙を使って刷り上げる「更紗師」。

4階の茶室には、和紙でつくられた蚊帳が展示されていました。2階、3階には江戸時代に使われた版木や、ふすまの見本などほのか、現代的な和紙アートが並びます。

091113kawag2.jpgひとつひとつをじっくり眺めながら、ていねいな手しごとがあたりまえだった時代に、職人たちが息をこらして繊細な文様を仕上げていったであろう姿に思いを馳せました。そして、マンションの部屋と江戸文化とのあいだに完全な断絶があることに、あらためて驚いてしまったのです。

夏になると浴衣、それも古典的な柄の浴衣ばかりをひっぱりだして着たくなるのは、住まいという大きなうつわではなかなか味わいにくくなった江戸の文様を、せめて身につけて楽しみたいという気持ちも混じっているのかもしれませんね。

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2009年11月06日(金曜日)

マックカフェにラテアート登場

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091106kawag.jpgニコンのCMの冒頭で、木村拓哉の目の前で美しいラテアートを描いてみせるバリスタをご存じでしょうか。彼こそフリーポア・ラテアートのワールドチャンピオン、澤田洋史さん。

 ※参考:澤田洋史さんのラテアートと北米カフェ文化

その澤田さんのラテアートが、今度はマクドナルドの「マックカフェ」新コーヒーの広告に起用されています。

マックカフェの店舗の壁はもちろんのこと、渋谷の街を走り抜ける「マックカフェカー」の車体にも、ハチ公前の東急百貨店の外壁にも、澤田さんがミルクピッチャーと腕ひとつで描きあげたラテアートの写真が!

【無料カフェラテプレゼント】
 本日11月6日(金)14:59まで、
 マクドナルド渋谷東映プラザ店にて。

【都内5箇所に「マックカフェカー」が登場】
 12月2日まで、有楽町マリオンなどでカフェラテを無料配布。
 詳細はこちらをどうぞ。

もちろん、ラテアートはバリスタの職人的技術から生まれるものですから、マックカフェの店頭で配られるカフェラテにはほどこされていませんが、澤田さんいわく「新導入エスプレッソマシーンは、ラテアートが描けるくらいシルキーで、なめらかなミルクができます」とのこと。

「これをきっかけに、フリーポアラテアートのアートが一般の方にも認知されることを願っています」

それにしても、あちこちの街角で自分の描いたラテアートの写真に遭遇するって、どんな気持ちでしょうね?

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2009年10月30日(金曜日)

トルコライス・3つの仮説

東京カフェマニア主宰 川口葉子

今回の旅でみつけた、いちばん変なもの。電車食堂とトルコライス。

長崎の繁華街の路地裏を散歩していたら、一瞬、視線が釘づけになったのです。建物の壁から、いきなり電車が?! 

あとで判明したのですが、それは「きっちんせいじ」という有名な洋食屋さん。かつて長崎市内を走っていた路面電車を改造したお店でした。

091030kawag.jpgちらりと祐天寺の「ナイアガラ」が脳裏をよぎり、好奇心を抑えきれずに扉を開けると、店内はめくるめく電車コレクション! 天井から下がる吊革、網棚、ライト、古めかしい車掌の帽子とかばん、駅のプレート…。

このインテリアは「電車ファンには“過剰に収集する”という気質があるのね」と納得できましたが、納得できなかったのがメニューにあった「長崎名物トルコライス」。
なんでも、ピラフ+ナポリタンスパゲティ+トンカツの3品をワンプレートに盛り合わせたお料理なのだそうです。それがなぜ、トルコ?

食べ盛りの男子中学生のために炭水化物とお肉と油を盛り合わせたようなこのプレート、写真を見ただけで体重が1kgくらい増えたような気がして、オムライスを注文しました。

昔ふうの味がするオムライスを噛みしめながら、愛想の良いお店のおばさまに「トルコライスとはなんですか?」と尋ねてみたら、たぶん観光客に100回も同じ質問を受けているのでしょう、にっこりして「はいはい、私の説明より、こちらを読んでもらったほうがわかりやすいからね」と、雑誌の切り抜きらしいファイルを渡してくれました。

それによれば、トルコライスという命名には幾つかの仮説があるのだそうです。

(1) トルコライスの発明当初は、トンカツではなく、シシカバブがのっていた。
(2) 当時、名前に「トルコ」をつけるのが流行していた。
(3) 「トリコロール」がトルコに変化した。

3番目のトリコロール説にも、2種類のもっともらしい理屈がありました。ひとつは、お皿の上の「三色」の取り合わせをフランス語で表現したという説。もうひとつは、最初にトルコライスを出した喫茶店の名前がトリコロールだったという説。

どの仮説も、いまひとつ説得力に乏しいですね。結局、トルコライスの確固たる由来はわからないようですが、説明はこんなふうに続いていました。

「なぜトルコライスが長崎に定着し愛されるようになったのか?
 それには、昔から異文化に慣れ親しみ
 抵抗なくその良いところだけを積極的に取り入れ
 ミックスしアレンジする長崎という地域特有の、
 いうなればチャンポン文化、チャンポン気質というものが
 東洋の炒飯(ピラフ)、西洋のスパゲティ、そしてトンカツを
 一つの皿に盛るトルコライスを誕生させたのではないか?」

はあ、なるほど。なんとなくわかったような気になりますね。長崎のチャンポン文化と沖縄のチャンプルー文化の共通点などに想いをはせました。

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2009年10月24日(土曜日)

祈りの島、貝殻の聖水

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091024kawag1.jpgひとりで五島列島をのんびりと旅して、小さな古い教会の数々をめぐってきました。

旅のきっかけは、京都のひそやかな美しいカフェ、好日居の古い家具の上に並べておいてあった5つの小石。店主が五島列島で心ひかれて拾ってきたというその小石に、なぜか私も吸い寄せられてしまったのです。

五島列島は隠れキリシタンの島。甘やかなターコイズ色に輝く透明度の高い海からは想像もつかない、過酷なキリシタン弾圧の歴史を持つ土地です。

200年以上に渡る厳しい弾圧を受けてもなお、島の人々を信仰に向かわせたものはなんだったのか。質素な教会の扉をひとつ開くたびに、考えずにはいられませんでした。

島には牢獄のあとが残っており、そこでどんな拷問がおこなわれたのか、読むだけで具合が悪くなるような陰惨なものだったのです。

同じ島民のあいだでさえ、現在もカトリックの人々との間には見えない壁が残っているようで、小さな乗り合いタクシーでいっしょになった島のおばさんは、「これから五輪教会に行くの? わたしは50年ここに住んでいるけれど、一度も行ったことがないわ」と、ものめずらしそうに私の顔をのぞきこみました。

無人のひっそりした教会の内部を満たす空気は1軒ごとに違っていて、信者ではない私にもその個性が興味深く感じられました。清浄であたたかな気配に満ちた親しみやすい教会。外部からの闖入者を用心深くみつめ返すような教会。

かつて島々では、礼拝の時間が近づくと、ほら貝を吹き鳴らして人々に知らせていたそうです。現在も教会の柱には大きな巻き貝が置かれ、聖水入れとして使われていました。
島の祈りには、澄んだ海の貝殻たちが静かに寄り添ってきたのですね。

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