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2010年01月29日(金曜日)

縁起ものは駄洒落である

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100129kawg.jpgお財布は春に買うとよい、なんて縁起担ぎをご存じでしょうか。春、すなわち立春の2月4日から。

春は「張る」に通じるというわけで、春財布=張る財布。たっぷりのお金に恵まれて、お財布が大きく張るのだそうです。
私はとんと知らなかったのですが、友人いわく「あーら、常識よ(笑)」

ただの駄洒落でしょと笑う私に、風水的な根拠があるのだと主張する友人。

考えてみれば、縁起ものはみな洒落ですね。おせち料理が良い例です。まめで暮らすようにと黒豆。よろこぶにかけた昆布巻。きんとんは漢字で「金団」と書いて財宝を表すのだとか。鯛も、めでたい。

友人は来週、立春の日にお財布を新調するつもりだそうです。秋に買うのは「空き」に通じ、お財布がからっぽになるので好ましくないとか。

でも、そんな洒落でいいのだったら、冬のお財布だって「富裕」に通じるから縁起が良さそうですよね! そして夏のお財布は「放つ」に似ていて、お金をどんどん解き放ってしまいそう。

つまらないことを考えて遊んでいたら、友人に「春財布のありがたみが薄れてくるような気がするから、もうやめて」と、いやがられてしまいました。

嘘かまことか、お財布もふくめて、新しいものは「寅」の日に使い始めると開運招福の力が強まるのだそうです。ちなみに今年の2月の寅の日は、2月9日と21日。花粉症の人などは、この日にマスクを買って使い始めると、気やすめにはなるかもしれませんね。

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2010年01月22日(金曜日)

カフェの名前、さまざまな由来

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100122kawag.jpgお店の人に、店名の由来を訊ねるのが好きです。

シンプルに自分の名前や街の名前をつけたお店。考え抜いて、意味の深い名前をつけたお店。逆になるべく意味を持たせないようにして、語感を第一に名づけたお店。どの名づけ方式にも、お店をつくる人の考えがのぞいていて興味深いのです。

最近ちょっと感嘆した店名といえば、水道橋にある「食堂アンチ・ヘブリンガン」。一度聞いただけでは覚えられないし、いったい何のアンチなのかと首をかしげますよね。

ご主人に尋ねたら、なんと小津安二郎の映画『秋日和』に登場する丸薬の名前だそうです。大正時代に田口参天堂(現在の参天製薬)が大ヒットをとばした風邪薬がヘブリン丸
ユニークな店名には、健康的なごはんで体の調子を整える食堂、という意味がこめられているのですね。まいりました。

素敵に洒落が効いている例としては、西陣にあるles trois maisons(レ・トロワ・メゾン)。拙著『京都カフェ散歩』でもご紹介しましたが、築80年になる町家を再生し、2階は旅館に、1階はカフェと、町家らしい長い土間を抜けていくギャラリーに仕上げています。

旅館・カフェ・ギャラリーの3つの空間が集まっているからトロワ・メゾン(3つの館)と名づけたのね…と思いつつ、ふとお店の入り口に残されている往年の住民の表札を見あげたら、なんと表札の名は「三宅」さん!

そして今週、すばらしいなと思ったのが吉祥寺にオープンした八十八夜。東京カフェブームのトップランナーのひとつだった高円寺の名店here we are marble!が、開店10年を経て吉祥寺につくりあげたお店です。

立春から数えて88日目の八十八夜は、農業をいとなむ人々にとっては大切な種まきの日。お茶畑では茶摘みの日。そしてまた、「八十八」という漢字を組み合わせると「米」という字! 日本の米やお茶や野菜たちにとって、八十八夜はスペシャルな日なのです。

その八十八夜を店名に冠したカフェでは、銀座の高級レストランにも野菜を提供している青果店「築地御厨」の内田悟さんから素材を仕入れ、そのおいしさを活かした「日本のごはん」の数々を楽しませてくれます。

野菜だけでなく、お肉も魚もお酒も豊富な八十八夜のメニューを読むのが楽しいこと! 土鍋で炊くごはんの銘柄も、塩の種類も自分で選べるのです。

堅苦しさもストイックさも全くないけれど、食の意識の高い人々を充分に満足させる、素材力のあるお料理が勢揃い。ランチをいただきに行ったのですが、夕方からのグランドメニューに魅了されて、さっそく夕食の予約を入れました。

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2010年01月15日(金曜日)

花の顔は太陽を向いている

東京カフェマニア主宰 川口葉子

春の終わりに新しいカフェの本を出すことになり、今月はずっと都内のあちこちのお店を取材して回っています。

取材も写真も文章も自分ひとりで、というのが私のいつものスタイル。一般的な取材はカメラマンと編集者が同行することが多いので、お店のかたに「おひとりですか?!」と驚かれることもありますが、それも慣れてしまいました。

100115kawag.jpg手袋をしていても指先がかじかむ夕方--それはこの冬いちばんの寒波と雨が街を包みこんだ日のことですが、取材先の静かなカフェで、心に残るお話をうかがいました。

お店のあるじの本業はフラワースタイリスト。ひっそりと美しいカフェでは、定期的にお花の教室も開かれています。

お店に配達されてくるたくさんの花材は、すべて那須で無農薬で育てられたものだそう。なるほど、一般的に出回っている花々は、この国の野菜と同じように農薬をスケジュール通りにまき、規格通りのサイズに育てられるのだ……と、私は初めて気がついたのです。

那須には、無農薬で草花の露地栽培をしている若者がいるのだそうです。彼らはかつて花市場で働いていたのですが、農薬を浴びた花々を毎日大量に扱っているうちに体調を崩してしまい、那須に移住して自分たちで栽培を始めたのだとか。

市場に出荷される花々はまっすぐに上を向いていますが、露地栽培された花々は、右を向いたり左を向いたり。時として曲がりくねったり。

「自然に育てられた花の顔はみな、太陽のほうを向いているんです」
カフェのあるじがそう教えてくれました。

「だから1本ずつ表情が違います。お花の教室で生徒さんたちにお伝えするのも、まず、花の顔をよく見て、どの向きが正面なのかを知るということ。どんなふうに育ったのか、その花がはえていた場所や風景を想像してみてくださいって」

彼女が用意する花器は、もとは古びた黒い汁鍋だったり、たっぷりとお総菜が盛りつけられたであろう大きなうつわだったりの、飾り気はないけれど豊かな質感をまとった古道具たち。そんな生活の道具がたどってきた小さな物語も、あわせて生徒の方々にお伝えするんですよ、と彼女。

手に取った1本の花を見つめて、ここにやってくるまでの花の時間を考えること。そんな視線は、彼女がご主人とていねいにつくりあげた空間のすみずみにいきわたっていました。

その夕方聞くことのできた、心を柔らかくするたくさんの小さな物語。受け取った私は、それをどんなふうにほかの人にお伝えできるだろうかと、考えつづけています。

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2010年01月08日(金曜日)

京都の朝食:すっぽんの小鍋仕立て

東京カフェマニア主宰 川口葉子

100108kawag.jpg(写真左は京都ホテルオークラのロビー。柳の枝に紅白の小さなお餅をさした「もち花」が、年末年始の華やいだ空気にいかにもふさわしく思われました)

午前の冴えた青空は、冬の大きな魅力のひとつですね。研ぎ澄まされた青さが、気持ちの澱をぴかぴかに洗い流してくれるようです。

皆さまはどんな新年を迎えられたでしょうか。私は年末に家族で4日ほどの京都旅行に出かけました。

ずっとホテルオークラに滞在していたので、そのうちの1日は朝食をオークラ6階の京料理・入舟に予約して、名物のちょっと贅沢な「すっぽん小鍋こだわり朝食」をいただきました。
(宿泊客以外でも楽しめます。3日前までに要予約、1人5,775円)

鳩羽色の和服を着た女性スタッフに案内されたのは、靴を脱いであがる個室のお座敷。畳の上にテーブルと椅子というしつらいは、京都の古いお寺の一室などでもよく目にしました。
窓からは日本庭園の緑が見えて、落ちついた雅な朝食……のはずが家族旅行の常で、ちょっとばかばかしい会話が交わされることに。

「すっぽんに噛みつかれないように注意しなさいと、姉に言われてきたの」
などと言い出すのは母です。
母とその姉はとても仲良し。私が旅行前に電話して「朝食にすっぽん鍋を予約した」と母に知らせるやいなや、姉に報告したらしいのです。

「おかあさん…生きたまま食べるわけじゃないから」
「あら、そうよね」

写真右の一番上が、そのすっぽんの小鍋仕立て。手前に写っている黒っぽくてゼラチン状のものがすっぽんの一部です。
ネギの下にもたっぷりとすっぽんのお肉があり、どうやら一口食べて「気味の悪い食べもの」と判断したらしい母は、目をつるぶようにして、あまり噛まずに大急ぎで飲みくだしておりました。

100108kawag2.jpg冬の朝のすっぽんのぽかぽかと温まること! 
そして、おもてなしの細やかな心くばりが嬉しいのです。お味噌汁が赤だし・田舎味噌・白味噌の3種類から選べたり(うちは4人とも嗜好が違うので、てんでに注文してみたところ、3種類それぞれに具も違っていました)、海苔を自分好みに炙れるようにと七輪が用意されたり。

以下がこの日の朝食のメニューです。

【小鉢2種】 蟹とキュウリの土佐酢、胡麻豆腐とウニ
【佃煮】 自家製じゃこ山椒煮
【焼魚】 まながつお塩焼き 堀川牛蒡
【小鍋】 すっぽんの小鍋仕立 焼栗麩 九条ネギ
【玉子】 だし巻玉子と大根おろし
【焚合せ】 かぶら蒸し 鯛 ぎんなん 
【味噌汁】 赤だし・田舎味噌・白味噌の中からお好みでひとつ
【焼海苔】 生海苔 
【御飯】 釜炊き魚沼産コシヒカリ
【香の物】 京漬物盛り合わせ
【水物】 季節のくだもの

ごはんは真っ黒な土鍋ごと運ばれてきました。土鍋炊きのごはんのお味は格別。土鍋の底までしゃもじを入れると、みごとなおこげができていました。

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2009年12月25日(金曜日)

Volo Cosi(ヴォーロ・コズィ)の聖夜

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091225kawag1.jpg小石川植物園のほど近く、都営三田線「千石」駅から歩いて5分ほどのおよそ気の利いたレストランなどありそうもない通りに、今年の私のベスト・イタリアンが店を構えています。1年の締めくくりに、夫と二人で夕食を楽しんでまいりました。

シェフの西口大輔氏の経歴は…と書くのももどかしいのでこちらのサイトなどをご覧いただくとして、一皿一皿が本当に素晴らしく、記憶に残るコースとなりました。

イタリア料理ならではの力強い味わい、とくればインパクトがありつつおおらかな風味を想像しますけれども、西口シェフのお料理は、力強く厚みのある旨味のなかから、細心の注意を払って作られた繊細な味と香りが美しく顔をのぞかせ、二度感動するのです。

このコースはまだ皿数があり、写真をすべて載せることができませんでした。他に、チーズが香るグリッシーニや、フォアグラに洋梨の赤ワイン煮をあしらい、薄いトーストの上にのせていただく一皿が運ばれました。ほんのひときれなのに、マイ・ベスト・フォアグラ。

左の写真の1番上は「手でつまんでお召し上がりください」の声とともにサーブされた小さな前菜。ナスのソテーや極小ピッツァ、上品なサラミなどの盛り合わせ。スプーンの上はお米のサラダです。

2番目は西口シェフのスペシャリテ、「ヴェネツィア風魚介の前菜の盛り合わせ」。ふっくら焼いた牡蠣のベーコン巻き、ポテトサラダの上にキャビアをのせたものや、イカの野菜詰め、タコの足をゼリー寄せにしてサラミ仕立てで楽しませてくれる一切れ、ウナギのマリネを細く渦巻き状にしてポレンタにトッピングしたものなど、多彩な驚きの弾ける一皿です。
中央のぷりっとした海老はもちろんのこと、鯖を小さなタルト状に焼いたラビオリにのせた一口が最高でした。鯖から独特のくさみを抜いて濃厚な旨みだけを残し、皮目を香ばしく炙ってあります。

091225kawag2.jpg3番目は「青森産ホタテとイタリア産カルチョフィのグラタン」。これがまた! ジューシーなホタテの下に、複雑で飽きさせないたっぷりの旨味素材が隠れていました。

次はパスタ系が2皿。「自家製スパゲティー ヤリイカ、パンチェッタと赤チコリのラグーソース」、その下は「エゾ鹿のラザニア アルバ産白トリュフ添え」。
前菜が始まる前に、スタッフが白トリュフをまるごとラベル付きで器にのせて持ってきて、「これを使います」と匂いを嗅がせてくれました。高価なアルバ産は偽物がたくさん出回っているので、本物ですよ、というラベル確認の意味もあったのでしょうね。このラザニア、濃厚で官能的な味わいでした。

ああ、書ききれなくなってきました。写真右は上から、真鯛のオーブン焼き、小鳩と鴨のロースト、温かい林檎のパイにマスカルポーネのジェラートをのせたドルチェ、最後がエスプレッソのための小菓子でした。

なにが素晴らしいって、どの一皿にも、味わいの中心にくっきりとしたぶれのない信念のようものが発見できること。お店を出るときにお見送りしてくださった西口シェフからは、謙虚なお人柄がうかがえました。

ちょっと面白かったのは、お店の内装が完全にクラシカルなフレンチレストランのそれであること。ヴォーロ・コズィがオープンする前はフレンチレストランとして使われていたのですって。

Volo Cosi(ヴォーロ・コズィ
東京都文京区白山4-37-22 
TEL 03-5319-3351
【Lunch】12:00~13:30 LO
【Dinner】18:00~21:30 LO 
MAP Yahoo!地図情報

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2009年12月18日(金曜日)

自分を磨く前に、部屋を磨く

東京カフェマニア主宰 川口葉子

クラシックの演奏家がインタビュー番組に出演した際に「留守のあいだ、部屋にCDでグレゴリオ聖歌かなにかを流しておく」と話した言葉が、もうずいぶん長いこと私の記憶にひっかかっていました。
「音が部屋の空気を洗い清めてくれるから」と、演奏家は語っていました。

そのせいなのでしょう、Web上で偶然に「場の空気を浄化する音」が入っているというCDをみつけ、面白がって注文してしまったのは。

届いたCDに録音されていたのは、音叉を打ち鳴らす不思議な音の数々でした。もともと耳を傾けて聴くつもりはなく、BGMがわりに何気なく流していたのですが、その翌日、どういうわけか大掃除がしたくてたまらなくなってきたのです!

そうして2週間以上にわたり、10年に1度というレベルの大・大掃除が始まってしまったのでした。

毎日、とりつかれたように押し入れの中のものを全部出して、消臭抗菌剤「ミラクリーン」を盛大にスプレーし、押し入れの中に空気清浄ファンを入れて風をあてたり。
家に7つある書棚の本を全て床に積み上げ(恐ろしい惨状を呈しました)、千冊以上の本を処分したり、ベランダに熱湯をたっぷりまいて、デッキブラシで磨きあげたり。

私は旅や取材に出かけたり本を書いたりするので、たまにエネルギッシュな人と誤解されることがあるのですが、それらはあくまでも特殊な非日常。日常はいつもだるくて、すぐに疲れて横になってしまうたち。基本的に、ベッドに本とコーヒーを持ちこんで日々を過ごしている怠けものなのです。

091218kawag.jpgですから、この長期的徹底掃除のそれはそれはつらくて楽しいこと! 毎日、家具を大移動するおかげであちこち筋肉痛になるし、2週間以上、家中が倉庫のような状態で、精神的にも体力的にもへとへと。

しかし、なぜか「このままでは新しい生活が始められない!」という衝動に動かされて、掃除を続けないわけにはいかなかったのです。もはや魂のレベルで浄化とすっきりした環境を欲していたのかもしれません。

努力したぶんだけ、住まいがきれいになっていくのは爽快なこと。薄くほこりをかぶって存在を沈み込ませていたモノたちが、本当に輝きを放っているのです。

本棚の奥からは、かつて掃除意欲をかきたてるために買った本が何冊も発掘されました。ここに挙げた2冊はもうずいぶん昔のもので、いまやこの分野の古典となっていますが、再読するとやはり掃除心が刺激されますね。

『ナチュラルクリーニング』には化学物質を使わず、重曹とお酢を使いこなしてハウスキーピングをおこなうレシピが満載。

カレン・キングストンの『ガラクタ捨てれば自分が見える―風水整理術入門 』は、日々たまっていくガラクタをエネルギーの停滞と位置づけ、部屋をすっきりと整理することで、いらないものがいっぱいで身動きのとれなくなった人生に、気持ちのよい新しいエネルギーを呼び込もうというもの。

どちらも、もはやすっかりおなじみのレシピ&考え方ですが、ページをめくるそばから、適当にモノを押し込んでしまった戸棚の奥が気になりはじめるという影響力を持っています。大掃除をしなくちゃいけないんだけど、面倒でやる気になれない…という人には、この手の本の一読をご提案します。

そして後日、友人に教えられて知ったこと。私が空気清浄音楽のつもりで購入したCDは、一部の人々のあいだで、掃除がしたくなるCDとして知られていたのです!
最初からそのつもりで購入した人の中には「掃除したくならない」と不満げな反応もあるようですが、少なくとも私には恐るべき一撃をもたらしてくれました。

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2009年12月12日(土曜日)

『味覚極楽(みかくごくらく)』子母沢寛

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091212kawag.jpgむかしの日本の味を熟知している人々の話を味わいたくなるとき、よく手に取る本があります。『味覚極楽』(中公文庫)。

これは1927年(昭和2年)、新聞記者だった子母沢寛が当時、美食家として知られる人々のもとを訪れ、おいしいものにまつわる話を聞き書きしたものです。

明治・大正時代の美味を知る各界の食いしん坊たち。インタビューを受けているのは、資生堂の主人だったり、小笠原子爵だったり、大倉男爵夫人、宮内省厨司長、増上寺大僧正、もと鉄道大臣、陸軍中尉など、各人のいかめしい肩書きにも時代の色が感じられます。

しかし当時もやはり、おいしいものに貴賤はなかったようで、祖父が袁世凱のおかかえコック(!)だったという名料理人を自宅にかかえる男爵夫人の華麗な食生活から、浅草の夜の屋台の安くておいしいことまで、食いしん坊たちはいつの世もマニアックに自分好みの味を追究しているのです。

コーヒー好きとして親近感をおぼえたのは、『日本一塩煎餅』と題した鉄道省事務官・石川氏のお話。

塩せんべいの食いまわりをはじめてから、もうかれこれ三十年にもなった。
九州から北海道とせんべい一枚を食うためにずいぶん苦労もしてみたが…(後略)

蒸気機関車の時代に、おせんべい一枚のために苦労して旅をする、ばかばかしくも楽しい食い道楽。そしてこの石川氏は、正しいおせんべいは「江戸を中心に関東のもの」、とくに埼玉県草加の町が日本一、との結論に達しています。関西のお醤油はおせんべい向きではないのですね。

京大阪から関西へかけては、見てくれの綺麗なものもあるけれども、要するに子供だまし、第一あの薄黄色いようなあの辺で使う醤油の匂いが承知しない。
前歯でガリリッとかんで、舌の上に運ぶまでに、めためたになってしまうようでは駄目なのである。
舌の上でぴりっと醤油の味がして、焼いたこうばしさがそれに加わって、しばらくしているうちに、その醤油がだんだんにあまくなる。
そして噛んでいる間にすべてがとけて、舌の上にはただ甘みだけが残るようでなくてはいけない。
この力説ぶり! しかも当時は伝統的製造法でつくられた本物のお醤油が使われていたでしょうから、さぞ力強く香ばしい風味が際だっていたのでしょう。
(上の文章の「醤油」を「苦味」に置き換えると、そのままコーヒーの理想としても成立しそうですね)

同じ章に、幕末時代のカステラのぎょっとするような食べ方についても言及があります。当時の長崎のカステラ広告に、カステラを薄く切り、わさび醤油で食べると酒の肴として至極上等だと書いてあるというのです。

現在私たちが知っているカステラとは少し違うらしいと断りつつも、著者の子母沢寛はこれを試さずにはいられませんでした。
知り合いの料理屋のおかみさんに頼んで、小さなひときれを出してもらったところ「ちょっといけるものである。…その後おかみの話に、ああでもないこうでもないと何にか珍しいものばかり食べたがっているお客さんへこれを出すと、ほめられますといっていた」

そう聞くと、自分でも試してみたくなりませんか?! 救いがたいほどの好奇心の強さは、食いしん坊たちに備わった特性のひとつだと思うのです。

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2009年12月04日(金曜日)

スイーツ×コーヒーの基本方程式

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091204kawag2.jpgクリスマス、バレンタインと甘いイベントが続く冬は、スイーツの本番とも言える季節。ケーキ・シーズンであるクリスマスを前に、タリーズから楽しいスイーツとコーヒーのペアリング情報が届きました。

いっしょに舌の上にのせるコーヒーの風味によって、スイーツの味わいはさまざまに変化するもの。ワインとお料理の相性がぴったりだったとき、一皿のおいしさは2倍以上に膨らむものですが、コーヒーとスイーツにも幸福なマリアージュがありますね。

タリーズによれば、基本のセオリーは「『ケーキのイメージ』と『コーヒーのイメージ』が近いものを選ぶ」のだそうです。フルーツの香りがするコーヒーにはフルーツを使ったスイーツを、コクのあるコーヒーには濃厚なスイーツを。

091204kawag1.jpg(A) 明るい酸味が魅力の、すっきりと飲みやすい中南米のコーヒー(コロンビア、グァテマラ、コスタリカなど)には、甘みがやさしく軽い口当たりのスイーツを合わせます。たとえば、ロールケーキ、シフォンケーキ、スフレチーズケーキなど。

(B) 深いボディを持つ、まったりした重量感のあるインドネシア系のコーヒー(スマトラ、ジャワなど)には、クリームやチョコレートをたっぷり使った濃厚な味わいのスイーツを合わせます。たとえば、ガトーショコラ、キャラメルクリームケーキ、ベイクドチーズケーキなど。

(C) 華やかな香りとフルーティーな酸味を持つアフリカ系のコーヒー(ケニア、タンザニアなど)には、フルーツを使ったさわやかな酸味のスイーツを合わせます。たとえば、アップルパイ、イチゴのケーキ、フルーツタルトなど。

そして、どんなケーキにもぴったりなのが、写真の「ホリデーロースト」。ビターチョコレートのようなコクと、後味のほどよい苦味がポイントだそうです。

※ペアリングに興味のあるかたは、タリーズがお店で主催する気軽なコーヒースクールの「コース2」へどうぞ。

私たちのコーヒーとのつきあい方は、年を追うごとに深く豊かになっていきますね。子どもの頃に初めて飲んだコーヒーは、インスタントの粉をお湯で溶いて、クリープと砂糖を入れたものでした。あのときは、コーヒー豆それぞれの個性とスイーツとの相性に考えをめぐらせて堪能する時代が来ようとは、きっと想像もしなかったはず。

小学生のとき、家に遊びに来た叔父夫婦に「コーヒーをいれてあげる」と言って、適量も知らずに通常の3倍以上のインスタントコーヒーの粉を溶いて二人の前にさしだし、ひとくち飲んだ叔父があまりの濃さに吹きだしそうになった場面を、ふと懐かしく思い出しました。

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2009年11月27日(金曜日)

隣の町のマルシェ・ジャポン

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091127kawag1.jpg野菜を作った人から直接買える。そんな嬉しい市場が、あちこちに少しずつ広がりはじめているようです。

主催は「マルシェ・ジャポン」。各都市で、農家の人々と消費者が、お互いの顔を見て言葉を交わしながら、手から手へ生産物を渡すことができる市場を定期的に開いています。

都心の広場に、収穫したばかりのみずみずしい野菜が並ぶ光景は心なごむもの。表参道なら国連大学前の広場、六本木一丁目ならアークヒルズ…と、立ち寄りやすい場所で開かれるのも魅力です。

※先週のアークヒルズのマルシェには、ほんものの乳牛が登場! 青梅の牧場からやってきた牛が、人々に乳しぼりを体験させてくれたそうです。

川崎チネチッタで映画を観るついでに、ラ・チッタ・デッラのマルシェに立ち寄りました。屋台はそう多くはないのですが、日本では少量しか栽培されていない、ちょっと珍しい野菜たちも並んでいます。

嬉しいのは、ちょっと味見させてもらえたり、その場でお料理の方法を教えてもらえたりすること。スーパーやコンビニエンスストアのお買いものにはない楽しさですね。

川崎・高津区の小宮農園さんの聖護院大根を眺めておりましたら、売り手の女性が「とりたては葉っぱや茎も食べられるんですよ、ほら、こんなに柔らかいでしょう。今朝とったからね」と、葉をさわらせてくれました。葉っぱは軽く油で炒めて、塩をふって食べるとおいしいのだそうです。

091127kawag2.jpg楽しい気持ちでこの聖護院大根や無農薬の玉ネギ、長野の有機大豆を使った古式醸造味噌などを購入したのはいいのですが、川崎に来たら必ずラゾーナで丸善書店に立ち寄り、ブレッツカフェ・クレープリーでガレットかクレープを食べながら買った本を読むのが私の定番散歩コース。全長1mの聖護院大根をかかえて書店の売り場を回遊するのは……じゃまでした。

次は、マルシェだけを目当てに行こうと思います。自分の近隣地域のマルシェ・ジャポンのメールマガジンに登録しておくと、開催日に「今日は雨なので1時間遅れて開催します」などというメールが届いて便利です。

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2009年11月20日(金曜日)

台湾から「ダライ・ラテ」

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091120kawag.jpg写真のカフェラテは、『京都カフェ散歩~喫茶都市をめぐる』でご紹介した京都・小川珈琲のバリスタ岡田章宏さんのデザインカプチーノ。

岡田さんはジャパン バリスタ チャンピオンシップ2008-2009の優勝者。このデザインは葛飾北斎の「富嶽三十六景」から着想を得たのだそうです。
ご実家が呉服商で、幼い頃から日本伝統の図案に親しんでいたという背景に、京都らしさを感じました。

台湾でも同様のバリスタチャンピオンシップがおこなわれているかどうかは不明ですが、デザインの面白さでは台湾のカフェも負けていません。
今年の初秋には、ダライ・ラマ14世の台湾訪問を記念して、台湾・高雄のホテルが新デザインのカフェラテを発売したそうです。

その名も「ダライ・ラテ」!

ご興味を持たれた方は、You Tubeで「達賴咖啡!創意咖啡拉花」と入力して検索してみてくださいね。台湾のTV番組が、ダライ・ラテが作られているシーンを報じています。

女性スタッフがミルクの泡でダライ・ラマの輪郭のかたどり、その上に筆で目鼻を描いていくのですが、完成品はダライ・ラマというよりは、人のよさそうな可愛いおじいちゃん。10年ほど前に他界した私の祖父にも似ているようです。

祖父の名は清(きよし)でした。ダライ・ラテはキヨシ・ラテ。もしかしたら台湾の多くの人々が「あら、うちのおじいちゃん…」と思いながら飲んだかもしれませんね。

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