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2009年11月13日(金曜日)

江戸からかみの世界

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091113kawag1.jpg(写真:江戸時代に使われた版木)

偶然にショールームの前を通りかかった「東京松屋」。江戸からかみ工芸の専門店です。

1階入り口のガラスケースにずらりと並ぶ葉書には、和紙の上に、萩の花、へちま、松の葉、梅、ひょうたんなど、四季を写した美しい草木の図案が踊っていました。

あれこれ迷った末に20枚ばかり買いもとめ、お店のかたの「よかったら2階から4階までのショールームものぞいていってくださいね」という言葉に従って、江戸からかみの世界を満喫しました。

江戸からかみとは、ふすまや屏風に貼る装飾和紙。京都旅行の折に、よく「唐長」のお店をのぞいてポストカードを購入するのですが、そちらは京からかみ。

京都と江戸のからかみ、どう違うのかといえば、京都は木版刷りが中心、江戸ではそれに加えて型紙による捺染や刷毛引きなど多彩な技法を加えたもの。

徳川幕府のもとで江戸の町が大きく発展し、ふすまや障子の需要はどんどん増えていったのですって。大江戸八百八町の家々のふすまや壁を、江戸からかみが彩っていたのですね。

専門の職人たちも大勢活躍していたそうです。木版刷りの技を持つ「唐紙師」、金箔・銀箔・砂子を駆使して華麗に装飾する「砂子師」、渋型紙を使って刷り上げる「更紗師」。

4階の茶室には、和紙でつくられた蚊帳が展示されていました。2階、3階には江戸時代に使われた版木や、ふすまの見本などほのか、現代的な和紙アートが並びます。

091113kawag2.jpgひとつひとつをじっくり眺めながら、ていねいな手しごとがあたりまえだった時代に、職人たちが息をこらして繊細な文様を仕上げていったであろう姿に思いを馳せました。そして、マンションの部屋と江戸文化とのあいだに完全な断絶があることに、あらためて驚いてしまったのです。

夏になると浴衣、それも古典的な柄の浴衣ばかりをひっぱりだして着たくなるのは、住まいという大きなうつわではなかなか味わいにくくなった江戸の文様を、せめて身につけて楽しみたいという気持ちも混じっているのかもしれませんね。

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2009年11月06日(金曜日)

マックカフェにラテアート登場

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091106kawag.jpgニコンのCMの冒頭で、木村拓哉の目の前で美しいラテアートを描いてみせるバリスタをご存じでしょうか。彼こそフリーポア・ラテアートのワールドチャンピオン、澤田洋史さん。

 ※参考:澤田洋史さんのラテアートと北米カフェ文化

その澤田さんのラテアートが、今度はマクドナルドの「マックカフェ」新コーヒーの広告に起用されています。

マックカフェの店舗の壁はもちろんのこと、渋谷の街を走り抜ける「マックカフェカー」の車体にも、ハチ公前の東急百貨店の外壁にも、澤田さんがミルクピッチャーと腕ひとつで描きあげたラテアートの写真が!

【無料カフェラテプレゼント】
 本日11月6日(金)14:59まで、
 マクドナルド渋谷東映プラザ店にて。

【都内5箇所に「マックカフェカー」が登場】
 12月2日まで、有楽町マリオンなどでカフェラテを無料配布。
 詳細はこちらをどうぞ。

もちろん、ラテアートはバリスタの職人的技術から生まれるものですから、マックカフェの店頭で配られるカフェラテにはほどこされていませんが、澤田さんいわく「新導入エスプレッソマシーンは、ラテアートが描けるくらいシルキーで、なめらかなミルクができます」とのこと。

「これをきっかけに、フリーポアラテアートのアートが一般の方にも認知されることを願っています」

それにしても、あちこちの街角で自分の描いたラテアートの写真に遭遇するって、どんな気持ちでしょうね?

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2009年10月30日(金曜日)

トルコライス・3つの仮説

東京カフェマニア主宰 川口葉子

今回の旅でみつけた、いちばん変なもの。電車食堂とトルコライス。

長崎の繁華街の路地裏を散歩していたら、一瞬、視線が釘づけになったのです。建物の壁から、いきなり電車が?! 

あとで判明したのですが、それは「きっちんせいじ」という有名な洋食屋さん。かつて長崎市内を走っていた路面電車を改造したお店でした。

091030kawag.jpgちらりと祐天寺の「ナイアガラ」が脳裏をよぎり、好奇心を抑えきれずに扉を開けると、店内はめくるめく電車コレクション! 天井から下がる吊革、網棚、ライト、古めかしい車掌の帽子とかばん、駅のプレート…。

このインテリアは「電車ファンには“過剰に収集する”という気質があるのね」と納得できましたが、納得できなかったのがメニューにあった「長崎名物トルコライス」。
なんでも、ピラフ+ナポリタンスパゲティ+トンカツの3品をワンプレートに盛り合わせたお料理なのだそうです。それがなぜ、トルコ?

食べ盛りの男子中学生のために炭水化物とお肉と油を盛り合わせたようなこのプレート、写真を見ただけで体重が1kgくらい増えたような気がして、オムライスを注文しました。

昔ふうの味がするオムライスを噛みしめながら、愛想の良いお店のおばさまに「トルコライスとはなんですか?」と尋ねてみたら、たぶん観光客に100回も同じ質問を受けているのでしょう、にっこりして「はいはい、私の説明より、こちらを読んでもらったほうがわかりやすいからね」と、雑誌の切り抜きらしいファイルを渡してくれました。

それによれば、トルコライスという命名には幾つかの仮説があるのだそうです。

(1) トルコライスの発明当初は、トンカツではなく、シシカバブがのっていた。
(2) 当時、名前に「トルコ」をつけるのが流行していた。
(3) 「トリコロール」がトルコに変化した。

3番目のトリコロール説にも、2種類のもっともらしい理屈がありました。ひとつは、お皿の上の「三色」の取り合わせをフランス語で表現したという説。もうひとつは、最初にトルコライスを出した喫茶店の名前がトリコロールだったという説。

どの仮説も、いまひとつ説得力に乏しいですね。結局、トルコライスの確固たる由来はわからないようですが、説明はこんなふうに続いていました。

「なぜトルコライスが長崎に定着し愛されるようになったのか?
 それには、昔から異文化に慣れ親しみ
 抵抗なくその良いところだけを積極的に取り入れ
 ミックスしアレンジする長崎という地域特有の、
 いうなればチャンポン文化、チャンポン気質というものが
 東洋の炒飯(ピラフ)、西洋のスパゲティ、そしてトンカツを
 一つの皿に盛るトルコライスを誕生させたのではないか?」

はあ、なるほど。なんとなくわかったような気になりますね。長崎のチャンポン文化と沖縄のチャンプルー文化の共通点などに想いをはせました。

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2009年10月24日(土曜日)

祈りの島、貝殻の聖水

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091024kawag1.jpgひとりで五島列島をのんびりと旅して、小さな古い教会の数々をめぐってきました。

旅のきっかけは、京都のひそやかな美しいカフェ、好日居の古い家具の上に並べておいてあった5つの小石。店主が五島列島で心ひかれて拾ってきたというその小石に、なぜか私も吸い寄せられてしまったのです。

五島列島は隠れキリシタンの島。甘やかなターコイズ色に輝く透明度の高い海からは想像もつかない、過酷なキリシタン弾圧の歴史を持つ土地です。

200年以上に渡る厳しい弾圧を受けてもなお、島の人々を信仰に向かわせたものはなんだったのか。質素な教会の扉をひとつ開くたびに、考えずにはいられませんでした。

島には牢獄のあとが残っており、そこでどんな拷問がおこなわれたのか、読むだけで具合が悪くなるような陰惨なものだったのです。

同じ島民のあいだでさえ、現在もカトリックの人々との間には見えない壁が残っているようで、小さな乗り合いタクシーでいっしょになった島のおばさんは、「これから五輪教会に行くの? わたしは50年ここに住んでいるけれど、一度も行ったことがないわ」と、ものめずらしそうに私の顔をのぞきこみました。

無人のひっそりした教会の内部を満たす空気は1軒ごとに違っていて、信者ではない私にもその個性が興味深く感じられました。清浄であたたかな気配に満ちた親しみやすい教会。外部からの闖入者を用心深くみつめ返すような教会。

かつて島々では、礼拝の時間が近づくと、ほら貝を吹き鳴らして人々に知らせていたそうです。現在も教会の柱には大きな巻き貝が置かれ、聖水入れとして使われていました。
島の祈りには、澄んだ海の貝殻たちが静かに寄り添ってきたのですね。

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2009年10月16日(金曜日)

セレブ・デ・トマト自由が丘のトマトジュース飲み比べ

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091016kawag.jpg(スクリーンがトマト色ですね!)

人気のCeleb de TOMATO(セレブ・デ・トマト)が青山店、代官山店などに続いて自由が丘にも登場しました。
ファッションビル「Luz自由が丘」の3階にオープンした店舗は「セレブ・デ・トマト 自由が丘テラス」と名づけられ、店奥に気持ちのよいテラス席が広がります。

土曜日の夜に、前菜からデザートまでトマトづくしのディナーコースをいただきました。なんといっても、ヘルシーなイメージが強力なトマト。ちょっとくらい食べ過ぎても「身体に良いものを摂取した!」という免罪符が付いていますものね!

とりわけ楽しかったのは、食前酒がわりに注文したトマトジュース4種の飲み比べセット(¥1200)。10種類ほどの品種の中から、日替わりで4種類が小さなグラスに盛り合わされます。
プレートを運んできたスタッフが丁寧にトマトそれぞれの個性を説明し、糖度の低い順に時計回りに飲んでいくようにとアドバイスしてくれました。

4種のなかのひとつ、セレブ・デ・トマト自慢の「薫寿-Kotobuki-」というトマトジュースは、北海道産の高級フルーツトマト100%。
その甘やかな味わいは、思わずスタッフに「はちみつを加えていませんか?」と確認してしまったほど。一般的なトマトの3倍以上の糖度を持っているそうで、舌にはちみつのような後味が残るのです。それは本当に、野菜というより真っ赤な甘い果実。

メインのお料理は意外なほどオーソドックスで、むしろ、ドライトマトのアクセントが魅力的なスープと、一番人気の看板スイーツ「完熟トマトのブリュレ バニラアイス添え」が心に残りました。なんといってもトマト&アイスには、バルサミコソースの甘酸っぱく優雅な香りが素敵に相性がいいのです。

余談ですが、Luz自由が丘の1階には昨年イスラエルから上陸した死海の塩コスメブランド「SABON」の3店舗目がオープンしており、シャンデリアやキャンドルの美しいディスプレイが人目をひいて大変なにぎわいでした。

セレブ・デ・トマト 自由が丘テラス
東京都目黒区自由が丘2-9-6 Luz自由が丘 3F
TEL 03-6459-5822

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2009年10月09日(金曜日)

コーヒーはジャズだ…福岡・passo a passo

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091009kawag.jpg新刊『京都カフェ散歩』(祥伝社黄金文庫・800円)は、1週間後に全国の書店のかたすみに並ぶ予定ですが、その本の中で、京都のカフェ・ピープルたちが口にした“コーヒー名言”をいくつか記しています。

  コーヒーは飲む音楽だ。

そんな素敵な考えを話してくれたのは、コーヒーマイスターの資格を持つ若い男性スタッフでした。

コーヒーに関わる人々がそれぞれ一家言を秘めているのは、コーヒーが「なくては生きられないもの」ではなく、あくまで「人生にあったらちょっと嬉しいもの」だからでしょうか。嗜好品を仕事の対象として選び、真剣に向き合う時間が、さまざまな考えを育てるのかもしれません。

そして先週は福岡で、心に触れるコーヒー名言を聞くことができたのです。それは小さな美しいカフェ、abeki(あべき)がつないでくれたご縁。

abekiは昨年出版された拙著『カフェとうつわの旅』でご紹介した福岡・平尾にある名店ですが、そのabekiにコーヒー豆を提供している福岡の自家焙煎珈琲ショップ、passo a passo(パッソ ア パッソ)を訊ねる機会に恵まれました。

passo a passoとはイタリア語で「一歩ずつ」という意味だと、店主・鵜狩雅俊さんが教えてくれました。
鵜狩さんはジャズとともに生活してきた人。コーヒー豆が並ぶカウンターの奥には、左側に焙煎機、右側に多数のLPレコードとジョン・コルトレーンの写真が鎮座しています。

  コーヒーはジャズだと思います。

鵜狩さんは気負わないようすで、さらりと言いました。焙煎もジャズの即興演奏のようなもの。毎日、お天気もコーヒー生豆も少しずつ条件が違うから、そのつど即興で最良の状態に仕上げていくのだと。

言われてみれば、音楽を演奏するという行為も、その場に居合わせて演奏を聴くという行為も、ただ一度かぎりで消え去っていくもの。その一回性と、焙煎の技術を駆使して品質を一定の振り幅の中におさめるというせめぎあいが、ジャズとしてのコーヒーの醍醐味なのかもしれませんね。

言ってみれば人生そのものがジャズみたいなもので…と鵜狩さん。彼はジャズのスピリットを抱いて生きているのです。

この素敵な自家焙煎ショップの店内には、音が豊かに柔らかく響くように、絶妙な角度で天井に向けてスピーカーが設置されています。passo a passoでは、コーヒー豆たちもジャズの音色を聴いて育つのです。

passo a passo(パッソ ア パッソ)
福岡県春日市小倉7-1 藤ビル
TEL 092-582-7575

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2009年10月03日(土曜日)

ジャン・ポール=エヴァンの「テール・ア・テール」(土から土へ)

東京カフェマニア主宰 川口葉子

091002kawag.jpg麻布の瀟洒な住宅街の一角にあるスタイリッシュなプライベート・ギャラリーでおこなわれたジャン・ポール=エヴァンの2009-20010コレクションに足を運びました。

つねにアーティスティックなクリエーションで私たちに驚きと喜びを与えてくれるエヴァン氏のショコラの数々。2009~2010年の中心テーマは「テール・ア・テール」(土から土へ=普遍的な基本にかえろう)。今年のノエルには、火・水・土・空気という4つのエレメントを表現した4種のケーキが登場します。

テーブルを小さな歓声で満たすその姿は、いずれも美しくもユーモラス。写真上の“レール(空気)”をイメージした「ビュッシュ レジュール」は、パリの空気のつまったショコラ風船に運ばれて、今にも空中に浮かび上がりそう! 

写真下のケーキは“ラ・テール(土)”を表現した「テール」。クリスマスツリーのオーナーメントのような色鮮やかなショコラボールの中には、ボンボンショコラが閉じこめられています。リアルな切り株のような器も、もちろんショコラ製。

個人的には“ル・フゥ(火)”を象った「ビュッシュ フゥ」の、柚子のジュレがみずみずしく香りたつ華やかな味わいに最も魅了されました。10月10日から、新宿の伊勢丹などで予約受付が始まるそうです。

そうそう、偶然にも会場で下井さんと一緒になり、ママになられてもまったく変わらないスリムなお姿に感動しました!

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2009年09月25日(金曜日)

おめでとうございます!

東京カフェマニア主宰 川口葉子

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今週は、これ以外に書くべき言葉がみつかりません。
下井さん、とびきり大きな、とびきり可愛い男の子のお誕生おめでとうございます!

私たちが見ることのない世界を見て、私たちが知ることのない世界をつくりあげていく子どもたち。2009年生まれの子どもの中には、22世紀を体験する者もいるのでしょう。

きっとたくさんのお母さんが切実に感じていることだと思いますが、子どもたちに、今よりひどくないかたちで、地球のバトンが渡せますように。


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2009年09月18日(金曜日)

村上春樹『1Q84』続編!

東京カフェマニア主宰 川口葉子

090918kawag.jpg村上春樹のベストセラー『1Q84』は、発売前に予約だけで版を重ねたことでも話題になりましたね。

林真理子の日記には「ベストセラーになっているけれど、私のまわりには誰ひとり『1Q84』を読んだ人がいない」と、ちょっと皮肉まじりの調子で書かれていましたが、私も含めて、友人知人はその逆。
ベストセラーになろうがなるまいが村上春樹の新刊は読む、という筋金入りのハルキストが揃っています。だって面白いんだもの!

夫には新刊が出るたびに私が貸してあげるのですが、彼はふだんめったに“純小説”を読まないかわりに、ひとたび読み始めると、深く深く物語世界にはまりこんでしまうタイプ。
おまけにゆっくりと読むので、『1Q84』を読んでいる期間中は、私との日常会話にもたびたび1Q84のカケラが登場することになりました。

たとえば、二人で食事に行った帰りにふと夜空の月を見上げ、なにを言うかと思えば
「月はいくつある?」
と聞いてきたり、遠くで雷鳴がとどろき始めると(彼が読んだのは7月でした)「リトルピープルが来るよ~!」と騒いだり。(夫は小動物のようなもの、正体不明のものがみんな怖いのです)

そんな夫から、最もしつこく質問されたのが「リトルピープルって、結局なんの象徴?」と、「結末はもうひとやまあるかと思ったんだけど、これでいいの?」の2点。(いいの、と訊かれても…)

最初の質問に関しては、「読者が“いつまでも胸にひっかかりつづける、消えない不思議”として、何年もかけて自分で考えを深めていくのがふさわしいと思う」と答え、次の質問に関しては「『ねじまき鳥クロニクル』3部作の最終巻は、当初は2巻で完結していたものが、後年になって3巻が書き加えられたから、『1Q84』もきっとそうなると思う」と答えておきました。

そして昨日。 【村上春樹氏:『1Q84」を語る 「来夏めどに第3部」】と題した記事が! ただいまBOOK3を執筆中だそうです。
ほらね、と夫にさっそく自慢しました。ハルキストの皆さま、来夏の大きな楽しみができましたね。

その後、林真理子の日記にも自身が読破したことが書かれていて、「純愛小説にも思想書にもサスペンスにも読める村上春樹さんってやっぱり天才です」に変わっていました。

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2009年09月11日(金曜日)

人生の価値は、思い出し笑いの数?

東京カフェマニア主宰 川口葉子

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(デザインが完成したばかりの新刊の表紙)

10月10日に発売される著書が、2週間後に校了を迎えようとしています。
校了とは、校正作業をすべて完了して、著者としては作業がゼロになる状態。あとは印刷所におまかせです。

校了前になると、出版社と私とのあいだでゲラが何度か往復することになるのですが、なにしろ締切が迫っていますから、宅急便のやりとりでは間に合わず、バイク便のお世話になることもあります。

今日もそんな予定だったのですが、若くて可愛い女性編集者さんから「いま、会社の事務の者が手があいているので、1時間後に川口さんのご自宅まで再校ゲラをお届けにあがらせます」という連絡がありました。

そして約束の時間の直前、彼女から衝撃の報告が……。

 「事務の者に、ゲラを持たせるのを忘れました!」

わざわざ神保町からうちまで、慣れない電車に乗って来てくださった事務の人は手ぶら! 
申しわけないけれど、大笑いしてしまいました。とりあえず、私が赤字で校正を入れておいた初稿を持ち帰っていただきました。

そんなわけで結局バイク便のお世話になったのですが、編集者さんは泣きながら「思い出し笑いの数で人生の価値が決まるといいますから、今日のことはそのひとつにします」と、自分をなぐさめていました。

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