
2009年05月22日(金曜日)
渋谷駅高架下、cafe SIPHON(カフェシフォン)の幻想ブレンド
東京カフェマニア主宰 川口葉子
渋谷の街を歩き回ってくたびれてしまい、駅前まで戻ってきて、ああ、腰をおろしてコーヒーが飲みたい…というシチュエーションは、かなり絶望的です。
もはや茶亭羽當まで歩く元気はないし、デパートの中のカフェに入るのは気がすすみません。
そんなときに目に飛び込んできたのが、山手線の高架下にある小さなカフェ。新橋のガード下のようだと思いながら入ってみたら、意外にも快適な時間が過ごせてしまったのです。
狭い空間に、ぎちぎちに並べられた椅子。形而上的(?)には分煙になっていて、入口付近は喫煙席、奥は禁煙席です。
壁にはモノクロームの写真、BGMはスタンダードジャズと、予想外のセンス。その時間、お客さまは3人だけということもあって、窓の外はせわしない雑踏なのに、妙にくつろいでしまいました。
カウンターに並んでいるのはコーヒーサイフォン。ああ、だから店名がSIPHONなのだなと、いったん納得しかけたのですが、店名はシフォンと発音するそう。なんとなく腑に落ちないけれど、あえて問いかけるほどの気力は残っていなくて。
しかし、ブレンドコーヒーの名前については質問せずにはいられませんでした。メニューの中に発見したおすすめのコーヒー、「幻想ブレンド 550円」。
気になってたまりません。ショパン? ベルリオーズ? シューマン? 吉本隆明?
落ち着いた年代の、感じの良い女性スタッフに「幻想ブレンドとはどういう意味ですか?」と訊ねてみたのですが、「いえ、あの、単にブレンドの名前なんですよ」と、拍子抜けするお返事でした。
サイフォンごと運ばれ、目の前で注がれた幻想ブレンドは、たっぷり2杯分ありました。決して悪くない風味。チェーン店のコーヒーよりずっと充足感を与えてくれます。
ハム&チーズのトーストなどいう喫茶店の王道メニューを追加して楽しんでいると、喫煙席に座っていたアラブ系の青年が立ち上がってお会計。
青年は女性スタッフが渡そうとする釣り銭を受け取りません。チップだと言っているようなのです。
百円玉が二人の手の間を往復したあと、青年は身をひるがえしてお店から出ていってしまいました。
「チップはいらないんですー!」
と、青年を追いかける女性スタッフ。
いまどきのカフェではあまり見かけない光景に出会った、と思いました。まことになんでもないひとコマですが、私は高架下カフェの記憶としてその瞬間を胸にしまいこみました。何年も過ぎれば、幻想のように思えるかもしれない日常のカケラ。
cafe SIPHON(カフェシフォン)
東京都渋谷区渋谷2-24-26 JR高架下
TEL 03-3407-9144
OPEN 7:00~22:00

2009年05月15日(金曜日)
リニューアルした新宿マルイに、スターバックス「ブラックエプロン」
東京カフェマニア主宰 川口葉子
4月24日にリニューアルオープンした新宿マルイ本館には、なんと2階と8階の2フロアにスターバックスが入っています。
このうち、2階のスターバックスは「ブラックエプロンストア」。しかもスタッフの全員がブラックエプロンというスペシャルな店舗。
スターバックスで働く人々は、通常は濃いグリーンのエプロンを着用しています。黒いエプロンは、コーヒーの知識の豊富なスタッフだけに与えられる、いわば“黒帯”。バリスタたちはブラックエプロンをめざして努力を重ねているのですって。
マルイ2階フロアの広い一角を、シックで落ち着いた内装でまとめたスターバックス・ブラックエプロンストア。窓辺には一人専用のソファ席などもあり、なかなか居心地がよさそう。
入って右側にはカウンター席が4つばかり設けられていて、この席でだけ、フレンチプレスで抽出するコーヒー各種、25種類以上を楽しむことができます。
たとえば、メニューに「ハーブやスパイスの風味が特徴」と説明されているアジア・太平洋地域産のコーヒーなら、ハワイの100%コナ(1杯1200円!)から力強いスマトラ(1杯420円)まで、6種類の豆が並んでいます。
中にはこの店舗でしかいただけない豆も5種類ほど。せっかくですから新宿マルイ限定を試してみたいと担当の女性スタッフに伝え、5種類の中から「ブラジルブレンド」を選んでみました。
スタッフによる説明は、メニュー全体について広く浅く概略を伝えるという感じ。初来店のお客さまに対して、いきなりマニアックなコーヒー・トークはしないのでしょう。笑顔を絶やさず、きびきびと豆を挽き、フレンチプレスとカップをセッティングしてくれました。
もちろん、レジカウンターに並べば、カプチーノやフラペチーノなど通常のメニューがいただけます。おもしろい体験でしたので、次回はほんの少し、コーヒー好きらしい質問をしてみようと思います。

2009年05月09日(土曜日)
美食家エルキュール・ポアロの朝食はブリオッシュと熱いチョコレート
東京カフェマニア主宰 川口葉子
5月に新刊が発売になりました。全国の書店やAmazonでお求めいただけます。見かけたら、ぜひ手にとってみてくださいね。
執筆中、私たちライター3人の自宅の冷蔵庫のなかは、つねにショコラ各種がいっぱい! なにしろ私の名前の中には「チヨコ」の三文字が隠れていますから、チョコレート・ジャンキーになるのは運命づけられていたのです…。
『ショコラの時間』
【出版】 青山出版社
【著者】 川口葉子/藤原ゆきえ/江沢香織
【定価】 1600円+税
芳醇な香り、とろける甘い口どけで、
たちまち心を虜にしてしまう魅惑のスイーツ、ショコラ。
そんなショコラの誕生物語から、
世界の美味が楽しめる東京のショコラトリー案内40軒!
そして、ショコラを使ったおいしいレシピ、
映画や小説に登場するショコラのスイート&ビターな瞬間など…
その魅力のすべてを詰め合わせてお届けします。
第4章「シネマのショコラ・言葉のショコラ」から、以下にほんの一部をご紹介しましょう。
* * * * *
美食家エルキュール・ポアロの朝食は
ブリオッシュと熱いチョコレート
アガサ・クリスティのペンが生んだ私立探偵エルキュール・ポアロは、黒髪に緑の眼、小柄な体躯に大きな口髭をたくわえて異彩を放つベルギー人。自己の頭脳に絶大な信頼を寄せています。
彼の口癖は有名な「私の灰色の脳細胞」と、不満なときにもらす感嘆詞「チャー!」。友人のヘイスティングス大尉によれば「チャー!」は猫のくしゃみにそっくりだそうですが、いったいポアロはどんなふうに発音するのでしょうね?
チョコレート王国ベルギーからロンドンに亡命してきたせいなのか、アフタヌーンティーにもホットチョコレートを愛飲しているポアロ。ヘイスティングスの目には「100ポンドもらっても飲む気になれないようなこってりしたチョコレート」と映りますが、ポアロの弁によれば、紅茶なんて「イギリスの好むまずい飲みもの」。カフェイン抜きのコーヒーは「ああ、そんなもの、まっぴらごめんです!」
美食を愛するポアロの朝食のテーブルには、甘い湯気がたちのぼるホットチョコレートと、チョコレートによく合うブリオッシュが並びます。ポアロは何軒ものお店のブリオッシュを試した末に、デンマーク人の経営するパティスリーのものを選んだのです。
クリスティが初めて手がけた戯曲『ブラックコーヒー』の小説版は、ポアロがいつものようにホットチョコレートとブリオッシュで朝食をとるシーンから始まっています。いったん決めた習慣をめったに変えないポアロなのに、その朝に限って珍しく従僕に2杯目のチョコレートを所望したのは、事件が起きるという虫の知らせだったのでしょうか。

2009年04月26日(日曜日)
京都人イケズ伝説
東京カフェマニア主宰 川口葉子
このところ、秋に出版する本の取材のために、京都に1週間ずつ滞在することが増えています。
先週も昨晩まで京都にいたので、このほんわか茶飲み日誌を更新するのが日曜日の夕方になってしまったわけですが、京都でお店の人にインタビューをするたびに、尋ねずにいられないのがイケズ伝説の真偽です。
創業1781年という祇園の有名な老舗「いづう」の静かな店内で鯖寿司をいただいたときのこと。隣のテーブルに座った旅行者らしきご夫婦が、お店の女性におそるおそる尋ねました。
「京都の飲食店では、帰るときに、お店の人に外までお見送りされたら、それは『二度と来るな』という意味なんでしょうか?」
お店のおばさまはもうひとりの従業員と顔を見合わせ、そんな話は初めて聞きますわ、決してそんな意味はないと思います、と笑って旅行者を安心させていました。しかし、こんなたぐいの不安を旅行者に抱かせることが、まさに「イケズ伝説」が全国に広く流布している証拠ですね。
私も取材の折に、単刀直入にお店のかたに質問してしまいます。
「京都のひとはイケズですか?」
年配の人々は「そらあもう、イケズですわ!」と太鼓判を押し、若い人々は「うーん…私たちの世代ではあまり感じませんね。京都出身じゃない人も多いし」と笑い、「でも、古くからの住民の方々は、じっとりとした物言いをしますね」とつけ加えます。
さる女性店主が話してくれた、おばあちゃんのイケズな物言い。彼女の姑は生粋の京都人で、彼女がお正月などに夫や子どもを連れておばあちゃんの家に行くと、
「絶対に泊まってほしくないくせに、『今夜は泊まってくれはるんやろ?』という言い方をするんです(笑)」
別の女性店主が話してくれた、近隣住民の物言い。住民は「昨晩はお店のお客さまの声が外まで響いてうるさかった」という苦情を言いにお店に来たらしいのですが、その話の切り出し方といえば、
「洗濯物が風で飛んでしまって、ちょっと拾いに来たんやけどな。そういえばゆうべはおたく、だいぶにぎやかだったらしいなあ」
風のまったく無い日でも、京都人の洗濯物はよく飛ぶようです!

2009年04月18日(土曜日)
「隠すものがない」ということ
東京カフェマニア主宰 川口葉子
4月1日にオープンしたツチオーネは「大地を守る会」が初めて作ったカフェ。メニューなどの詳細はこちらでお伝えしています。
先日あらためてツチオーネを訪れ、2年間にわたってカフェのオープン準備に力を注いできたお二人にお話をうかがいました。そのなかで印象的だったのが「隠すものがないので、オープンキッチンにしたかった」という言葉です。
30年以上にわたる全国の生産者たちとのおつきあいを通して生まれた信頼関係。安心して食べられる野菜から、たまご、調味料にいたるまで、このカフェのキッチンで使われる食材は、お客さまに対して、誰がどんなふうにつくっているかきちんと説明できるものばかりなのです。
写真下はほくほくのじゃがいもと半熟卵を自家製のマヨネーズで和えた一皿。添えられた葉野菜をさして、シェフが言いました。
「これを栽培しているのは、農家の7代目の人なんですよ」
野菜を育てているのがどんな人なのか、しっかりと顔や環境が見えているのですね。
人間は長いあいだ生きていれば、誰でも心の中に隠しておきたい傷のひとつやふたつ抱いていると思いますし、隠しておいたほうが素敵な秘密もありますが、少なくとも自分の手で生み出して人にさしだす仕事だけは、後ろめたいものはない、これを作るときに怠け心が入り込む隙間はなかったと、いつも胸を張れるようでありたいものです。背筋ののびる思いでした。
ツチオーネ
東京都世田谷区奥沢6-25-10
TEL 03-5706-0707

2009年04月10日(金曜日)
サンフランシスコ、「消防署料理」のレシピ!
東京カフェマニア主宰 川口葉子

(写真提供:なかがわかずこ)
上から:
カリフォルニアの映画館
アメリカのインド料理教室。美しい先生はインド人
アメリカの家庭料理教室の風景
なかがわさんのお嬢さんはドッグトレーナー
「サンフランシスコのどの消防署にも
オリジナルなシーザーサラダがあり、
ユニークな食事の伝統がある」
『FIREHOUSE FOOD COOKING WITH
SAN FRANCISCO'S FIREFIGHTERS』 より
(なかがわかずこ訳)
なかがわかずこさんというアメリカ料理研究家がいらっしゃいます。彼女は5年間にわたってアメリカ生活を送り、カリフォルニアとニューヨークで3人の子どもを産み育てるあいだに、多彩な民族の食文化が融合したアメリカ料理の魅力に開眼しました。
そのなかがわさんが大切にしているアメリカ料理の本の一冊に、『FIREHOUSE FOOD COOKING WITH SAN FRANCISCO'S FIREFIGHTERS』があります。訳せば、サンフランシスコ消防署の消防士たちが作るまかない料理!
なかがわさんからお話を聞いて、そのおもしろさと、充実した料理の数々、そしてひとつひとつの料理の背景に横たわる消防士たちの物語にすっかり魅せられてしまいました。
ファイヤーファイターズ、つまり消防士たちは毎日、消防署のキッチンで自分たちの食事をつくります。
24時間のハードな勤務体制のなか、みんなでダイニングテーブルを囲む食事の時間は最大の楽しみ。
そして、もしかしたらその日の消火活動で自分が命を落とす可能性だってあるわけですから、どのごはんも“最後の晩餐”なのです。
美食レストランの多さでも有名な“フードタウン”、サンフランシスコ。街の消防署にはアメリカ人もいれば、メキシコ人、アジア人、イタリア人もいます。彼らが作るまかないごはんは、その日の料理当番の故国の“おふくろの味”とカリフォルニアのテイストがミックスしたものになります。
消防士たちのレシピは、簡単、豪快、そしておいしい! 消防署のキッチンで細かな下ごしらえをする余裕などなさそうですから、手早く作れるレシピでなければ実用に適さないのでしょうね。テーブルについた食欲旺盛な仲間たちに、自分の家庭料理を「おいしい!」と言わせたくて、料理当番はあれこれ工夫しながら腕をふるうのでしょう。
街の人々のピンチを救うことに真摯な情熱を抱いているサンフランシスコの消防士たち。彼らは火災現場に駆けつければ火を消すために果敢に飛び込み、キッチンに入れば、大事な仲間に舌鼓を打たせるためにコンロに火をつけるのです。
「もし火災の通報があって出動したら、
何に遭遇することになるか、
自分がどうなるかわからないだろう?」
勤続25年のベテラン消防士、カート・“突撃”・ニールセンは言う。
「だから、でっかく生きて、でっかく食べるのさ。
どの食事も、しっかり満足できるものであるように。
なぜかって?
どの食事が最後になるかわからないんだから」
『FIREHOUSE FOOD COOKING
WITH SAN FRANCISCO'S FIREFIGHTERS』 より
なかがわかずこさんに、消防署のまかないレシピの中から1品を作っていただきました。ぜひ感動をお伝えしたくて、来週のAll ABout[カフェ]でご紹介させていただきます。

2009年04月05日(日曜日)
逃げるのをやめると、恐怖感が消えていく
東京カフェマニア主宰 川口葉子
きっと誰でも、「いずれは起きてしまうことだけれど、できればそれについては考えたくない」という将来の不安をいくつか抱えているのではないでしょうか。愛する人や家族の病気や死も、そんな漠然とした恐れのひとつですね。
お正月に大島の義父が脳梗塞で倒れ、ドクターヘリで23区内の病院に運ばれてきました。それまでの義父は私よりもずっと健康なくらいでしたから、本人にとっても家族にとっても、あまりにも突然のできごと。
食事も排泄も自分の力ではできず、水でさえ、とろみをつけないと飲み込むことができなくなってしまいました。これはまさに私が漠然と抱いていた「将来の不安」のひとつ。夫と私の生活も大きく変えざるをえないかと思われました。
これから、どうなっていくのだろう……最初の日はそんな考えが渦巻き、自分が立っている地面が消えていくような怖さの中にありました。考えはまとまらずにあちこち揺れ動き、無意識のうちに、どうしたらこの事態から逃げ出せるかしらと思っていることも。
でも、この事態をしっかり受け止めよう、自分にできることをしようと決めたら、不思議なことに恐怖感がすうっと消えていったのです。家族のみんながつとめて明るく、勇敢に対処していたことも大きな支えでした。
義父は3ヶ月の入院生活のあいだに、義母を中心とした家族のみんなに手厚く世話をされたおかげで、リハビリも順調に進み、先週、自分の両足で歩いて退院することができました。病院のベッドの上でたびたび恋しがっていた大島の自宅に戻れて、さぞ嬉しいことでしょう。
逃げまわるのをやめて、受け止めてしまえば、恐怖は消えていくもの。頭のどこかで逃げだす算段を考えるのに費やすエネルギーを、受け止めるエネルギーのほうに回せて、全力で向き合うことができるせいでしょうか。弱いと思っていた自分のなかに、意外な強さが隠れていることを発見したりもします。それを知ることができたのは、私にとって人生の大きな収穫でした。

2009年03月27日(金曜日)
『ブイヨンの気持ち。』
東京カフェマニア主宰 川口葉子
ほぼ日刊イトイ新聞のお楽しみ、「気まぐれカメら」コーナーの主役(?)、ブイヨンの写真を集めた本が生まれました。タイトルは『ブイヨンの気持ち。』
この本のページにあるのは、一匹の犬と飼い主の幸福な日々。人と犬が信頼で結ばれて、お互いを大事にしながら暮らしている(犬だって、飼い主を大事にしますよね)、そのなにげない日常のすがたを見ていると、あたたかい気持ちがこみあげてきます。
季節や時間がくっきりととらえられていることにも驚かされました。たとえば雨降りの朝の感じとか、薄い光のさす早春の窓辺。暑すぎて本を読む気にもなれないような屋外、冷房のきいた室内の動かない感じ(きっとエアコンの音だけが低く小さく聞こえている)、夏の終わりに縁側にころがっているセミ。
『魔法をかけに』というページには、いちめんの枯葉を敷きつめた地面に木々の影が薄く長く伸びて、そこに小さくブイヨンがいます。そしてこんな言葉が添えられています。
さぁ冬の中に 溶けていく。
わたしは 冬だ。
わたしは 白い息だ。
春まで眠る木々に、
魔法をかけながら駆け回るのだ。
すきやき、かわはぎ、ポン酢、鐘。
半月、謙遜、福寿草
(『ブイヨンの気持ち。』糸井重里)
感覚的な言葉が、みごとに写真と響きあっています。理屈で考えれば、1行目と2行目の話者は違うような気がするのですが、話者は「冬」でも「ブイヨン」でもいいんですよね。「腹話術している糸井重里」でもいいのでしょう。冬のぴんと張った空気、乾いた葉っぱの匂いがよみがえってきます。
何度見ても感動するのは、『朝』というページ。すがすがしい光のさしこむ窓にむかって、身を乗り出しているブイヨン。顔は写っていませんが、ぴんと立ったしっぽからも、ぴんと立った耳の影からも、表情がわかります。写真に添えられた言葉がまたすばらしいのです。
いま 朝を迎えに行く
犬が 朝を迎えに行く
先に起きた太陽が
運動している空に
眩しそうな視線を投げかけながら
犬が 朝を迎えに行くところだ
(『ブイヨンの気持ち。』糸井重里)
生きものの朝は、こうありたい!
300ぺージ弱の中には決してごきげんな日ばかりではなく、飼い主が疲れていたり、風邪をひいてだるそうだったりする日もあるのですが、犬のほうは毎日、朝がくれば散歩とごはん! 遊び疲れたら眠る! ボール投げしてもらったら嬉しい! おこられたら悲しい! という基本をいきいきとやりつづけています。
仕事や人間関係が複雑にもつれたとき、ブイヨンという生きものにどれだけ元気づけられることでしょう。そしてまた、人間の両足のあいだが寝心地の良いベッドだということを発見して眠るブイヨンの姿には、ただもう、にこにこせずにはいられません。

2009年03月20日(金曜日)
アレグレス、広尾一丁目スイーツ・トライアングル
東京カフェマニア主宰 川口葉子
「広尾一丁目」交差点がちょっとしたスイーツ・トライアングルになっていることに気がつきました。4階建ての小さなカフェ、GOBLIN(ゴブリン)を訪れた帰り道。GOBLINの自慢は繊細なおいしさのティラミスなのですが、そのすぐ隣の建物にAllegresse(アレグレス)を発見したのです。
よく帰宅前に品川のDEAN&DELUCA(ディーン・デルーカ)でパンやお菓子を購入して帰るのですが、Allegresse(アレグレス)のシュークリームやマカロンはそうして出会ったひとつ。ハードタイプのシューのぶあつくかりっとした食感に開眼したのも、アレグレスのおかげです。濃厚なカスタードクリームと堅い皮の相性、とても良いんですよね。
こじんまりした店舗には魅惑のケーキや焼き菓子が並び、通りに面した一角には小さなイートインも設けられていました。GOBLINでランチとティラミスをいただいたばかりだったので、焼き菓子をテイクアウトすることに。いずれも180円~250円くらいと、お値段も大変可愛いのです。
写真の上から、「バーズバーズ」2種。メレンゲ菓子で、ダックワースとマカロンをかけあわせたような面白い食感。サンドしたクリームが7~8種類ある中から、「ココナッツ」と「プラリネ」を選びました。
次が「ノワゼッティエ」。しっとりした生地の中からヘーゼルナッツの風味がこっくりりと湧きあがる魅力的なお菓子。
その下はふんわり軽やかな食感で、「ショコラ・セル」。上品なショコラの風味はコーヒーより紅茶に合わせたい感じ。
一番下が「ガレット・ブルトンヌ」。ゲランドの塩を効かせた定番的なおいしさ。
もうひとつ、細長いスティックタイプのチーズケーキ「バトン・フロマージュ」も購入して、飲みこんだあとから鼻孔にひろがるチーズの香りを楽しんだのですが、こちらは写真を撮ることを思いたつ前に、すっかり食べ終えてしまいました!
店頭にあったリーフレットにはこんな言葉が綴られていて、しっかり濃厚なおいしさのお菓子をつくることへの矜恃と心意気を感じました。
菓子屋は砂糖屋です。
料理人が塩加減を自在に繰るように
菓子屋は砂糖を自在に扱います。
艶を出したり焦がしたり、保存性を良くしたり
そして何より甘く美味しくするのです。
砂糖の持つ色々な力をアレグレスの菓子達でわかってもらえれば
砂糖屋として幸せなことです。
Allegresse Hiroo(アレグレス・ヒロオ)
東京都渋谷区広尾5-1-43
TEL 03-5448-9591
水休
さて、広尾一丁目交差点がどうしてスイーツ・トライアングルかといえば、三角形の2点をなすのはこのアレグレスと、GOBLIN、そして道路の反対側に気取らない小さなイタリアの伝統菓子屋さん「こぬれ」がいい匂いを漂わせていたのです。

2009年03月14日(土曜日)
京都、喫茶セブンの物語
東京カフェマニア主宰 川口葉子
仕事で京都に1週間ほど滞在していました。街角の喫茶店「御多福珈琲」で知り合った人が経営する日本酒自慢のお店に呑みに行き、「この近くで良い喫茶店はありませんか」と尋ねたら、小路添いに「喫茶セブン」がありますよと教えてくれました。滞在しているホテルから歩いて7、8分の距離です。
小雨の降る静かな朝に、喫茶セブンの扉を開けてみました。外壁には色褪せたCOFFEE セブンの文字。誰もいないひっそりした店内をストーブがあたためています。コーヒーとトーストのモーニングセットをいただきながら、白髪のマスターと話をしました。
喫茶セブンが開業したのは昭和38年。マスターの松宮さんはもとは会社員で、よく仕事をさぼって喫茶店で休憩していたそう。当時、会社員の月給が3,000~4,000円だったのに対してコーヒー1杯は50円。「こんなに楽な商売はないと思って(笑)」、みずから喫茶店を開業。
そのころ世の中は高度経済成長時代に沸いており、京都のこの界隈は着物で繁盛したそうです。着物を完成させるには10いくつもの工程があり、職人どうしの間でひんぱんに製作中の着物の受け渡しがおこなわれました。そうした受け渡しの待ち時間をつぶすために、また情報交換をするために、界隈の人々は喫茶セブンにひんぱんに出入りしていたのだそうです。
壁の片隅に残る変色した部分は、むかし階段があった痕跡。かつては2階にも席が設けられていたのだとか。2階はとうの昔に潰してありますが、目を閉じて、この静まりかえった店内が、景気の良い人々の活気ある会話や笑い声で満ちていた時代を想像してみました。
50円でスタートした喫茶セブンのコーヒーは、時代が移るにつれ10円、20円ずつを刻んで値上がりしていき、現在は300円。12年ほど前からこの良心的なお値段を守っているのだそう。常連客ばかりだから、申しわけなくて値上げできないとマスターは笑います。
「それでも、家賃がないからなんとか続けていられます。お客さまと話をするのが楽しみで店を開けているようなもんです(笑)」
お店を出るときに、なぜセブンという名前をつけたのですかと尋ねてみました。
「これがまた適当な話で、なんとなく3文字の名前がよかったんですな。ひかり、こだま、さくら…3文字なら、なんでもよかったんです、で、セブンですわ(笑)」
喫茶セブン
京都市中京区押小路通西洞院東入ル北側
TEL 075-231-6766
OPEN 8:30~17:00、日祝休
地図
喫茶セブンについてのさらなる情報はこちらをどうぞ。